今日は時間のすぎるのがとても速かった!何ていうか、仕事をしていた時の記憶がほとんど残っていない。覚えているのは時々ノボリさんとクダリさんが改札を通っていって、その時挨拶を交わしたってことくらい。
「お疲れ様です」
「お疲れ様でーす!」
ノボリさんだ。この時間に彼がここへ来るってことは、今日は挑戦者が少なかったのかな。いつもと同じ無表情だけど足取りは軽いみたい。
「早いですね!お客さん少なかったんですか?」
「いいえ?本日もいつも通りたくさんの方にお越しいただきましたよ。トウヤ様やトウコ様、珍しいことにチェレン様とベル様もいらしていましたね。ここを通った時に気づかれなかったのですか?」
まさか私があの四人に気づかなかったなんて!そんなに仕事に集中していたことが今まであっただろうか?
「今日はあなたさまと一緒に帰ろうと思ったのです。いつも就業時間がばらばらですから。ほら、早く着替えてきて下さいまし」
前髪のあたりにちゅっと唇を押しあてられた。キス、された!!
「うわー!?ノ、ノボリさん何を…!?」
「?今さら何を照れていらっしゃるのです」
「え?え??」
「どうなさったのですか?」
何だ?何?目がぐるぐるまわって、けれど私の前にいるノボリさんの白い服だけはやけにくっきり見える。
「初々しいのは嬉しいのですが…そろそろ慣れてくださいまし。さ、はやくわたくしたちの家へ帰りましょう?クダリも待っているころです」
わたくしたちの家、のところでノボリさんはにいぃと口もとをつり上げた。クダリさんとよく似ている。
今日来たお客さんのことを全く覚えていない。トウコちゃんもトウヤくんもベルちゃんもチェレンくんも本当にここを通って行ったんだろうか。ノボリさんになんて挨拶したか、クダリさんがどんな表情だったかは鮮明に覚えているんだけど。