「…ひどい顔でございますね」
「昨日レンタルしたホラー特集のDVD観ちゃったんです…。モノとしては多分つまんない方だったとは思うんです!めちゃくちゃありきたりな話ばっかだし俳優さんも微妙だったし!けどいざ寝ようと思ったら何かが後ろにいるような気がしてきて、仰向けになってもベッドの下から何かがずるずる這い出してきそうで、真っ暗な部屋に人影が見えるような感じがしちゃって…!」
「怖がりなのにそんなものを観るのが悪いのです!」
「わかってます!私が悪いんです!でも観ちゃったものはしょうがないじゃないですか!」
「いいですか、よくお聞きくださいましね」
「はい…何でそんなに真顔なんですかノボリさん!怖いからもっと笑ってください!」
「も、と、か、ら、で、ご、ざ、い、ま、す!笑ってほしいのですか!?クダリと同じ顔になりますがよろしいのですね!?ドッペルゲンガーのようになりますよ!」
「わぁぁやだやだやだやだノボリさん怖いー!クダリさぁぁぁぁん!」
「こら!お待ちなさいまし!」
「呼んだ?」
「わぁぁノボリさんが二人になったぁぁ!怖いよぉぉぉぉ!」
「えっ…僕クダリ!」
「わぁぁぁ喋った怖いよぉぉぉぉ」
「シャラップ」
「わぁぁぁムゴッ」
「…僕クダリ」
「……」
「あれノボリ」
「……」
「おっけー?」
「……(コクコク)」
「はい」
「ゴホ、ウェッホ!げふんげふん!クダリさん首も締まってましたよ!危うく逝くところでした!」
「ああそう、ゴメンネ?」
「棒読みじゃないですか」
「まっさかー!それで、君どうしてあんなに叫んでたの?僕の事呼んだから何事かと思ったらまた悲鳴あげるしさぁ」
「昨日ホラー物のDVDを観られたそうです」
「何?双子の殺人鬼でも出てきた?チェーンソー?」
「いえいえまさか…というかそれってホラーというかスプラッタなんじゃないですか?」
「え、そうなの?」
「すいません適当に言いました」
「まぁどっちでもいいけど。じゃああれかな、テレビからにゅるっと出てくる系の…」
「そんな本家本元に怖いのは観ませんよ!ただのまゆつばオカルト特集です!本当に正統派なうすぼんやりした幽霊の話と写真ばっかりの」
「うわっつまんなそう…」
「私もそう思いました。でも観ると結構怖くて、鏡みるのも怖いし、タバコの煙にもなんかの顔が写りこんでる気がしちゃって…!なんかまた怖くなってきましたよぉぉぉ!クダリさん何とかしてください!」
「んんん…。いーい、よく聞いてね」
「はい!」
「君の言うような幽霊ってのは触れない、透けてる、つまり気体でしょう?」
「はい!」
「気体って言うのはね、集まるものじゃないんだよ。大気に拡散していくものなの」
「拡散ですか?」
「空気に混ざってうすーく散らばってくってこと!で、幽霊は気体であるはずだから拡散していくはずなの。だから人の形をとどめられるわけなんて無いよ。すなわち君が怖がるような幽霊なんて存在しないってこと!」
「いないはずなのにいるのが怖いんじゃないですか!」
「存在しないんだからそもそもいないんだよ!」
「クダリさんわかってない!」
「君こそわかってない!」
「ねぇ、ノボリさんはいないはずなのにいるの怖いと思いますよね!?」
「えっ?あ、私は」
「へへーん!僕がさっき言ったこと、ぜーんぶノボリから聞いた話だもんね!ノボリこっち!」
「……」
「クダリさんのバカぁぁぁ!…あ、なんか気が紛れてきました!ていうかもう全然怖くないかも?やった!うおやべっ私今日中にまとめなきゃいけない書類あったんでした、失礼します!」
「…なんだかなあ、一人で勝手に盛り上がって行っちゃったねぇ」
「…いつものことでしょう」
「ふふふ、ねーノボリー」
「何です」
「自分であの話、したかった?」
「、別に…」