「そういう格好でうろつくんじゃありません!!」
「あいたぁぁ!……えっ何ででこぴんされたんですかわたし!?」
「ノボリ!女の子の顔になんてことするの!」
「そーだそーだ!なんてことするんですかノボリさんのあんぽんたん!」
「客商売なのに顔に傷つけるなんてお客さんが気を使うじゃんか、狙うなら服で隠れるところにしないと」
「ちょっと待ってクダリさんそれも酷いですけど!?ドメスティックバイオレンス!」
「それもそうですね、顔に傷なんかつけてしまったら責任取らなくちゃなりませんもの」
「僕知ってるよ、それマーキングって言うんだよね!」
「言いませんよ!どこの部族の求婚ですか、先行予約ですか」
「というのは冗談にしてもね、君その格好はないよ。痴女だよそれ」
「あっ今までのくだりって冗談だったんですか……うっかり退職届出すところでした!」
「提出されても受け取りませんからね。それ下履いてるんですか?」
「当たり前じゃないですか、ショートパンツ履いてますよ。なに真顔で言ってるんですかノボリさん……ちょっと捲らないでくださいそれセクハラって言うんですかんね!」
「寒くないの?肩とか脚とか」
「寒いです」
「でしょうね」
「でももう終電終わったしお客さんいないし部屋はあったかいしいいかなって思ってー」
「だからってその格好で通路ウロウロするのやめてよ、心臓に悪いよ」
「え?なんですって、これがセクシーなネグリジェに見えちゃって僕の心臓がどきどきむねむねですって?実はこれ通販で買ったシャツなんですけどぉー裏側起毛でぇー、断熱効果あってぇーさりげないいちご柄がちょーかわいくってー」
「いや、血まみれの丸太が歩いてるのかと思ってびっくりした。ずんどうすぎて」
「ムッカー!誰が電信柱ですって!」
「言ってないでしょう。それよりあなた鳥肌立ってますよ、早く寝なさい」
「えーボスが呼び止めたんじゃないですか」
「そりゃそんな恰好でフラフラしてるんだもん注意するよ」
「あーそうそうクラウドさんが無糖のココア缶持ってきてくれてー、でもお前らは砂糖めっちゃ入れよるから一日に一杯だけしか飲んだらあかんって言うからー、キャメロンさんとおやすみ前の贅沢でもしようと思いましてーへくしょん!あ、鼻出た」
「ティッシュどうぞ」
「おぉこれはどうも」
「え?キャメロンとココア?今から?」
「そうですよー、休憩室あったかいし別にこの格好でもいいですよね?」
「ダメに決まってます」
「なんで!」
「キャメロンがかわいそうだからだよ」
「んなっ!ちょー失礼なんですけどォー!むしろうら若きおなごの生足拝めるとかキャメロンさん役得でしょ!」
「だからそれが気の毒だというのですよ」
「うん、生殺し」
「…一応あなた年頃のお嬢さんなんですから」
「あらっノボリさんに褒められた!これは天変地異の前触れ!」
「まぁこれは見た目の話であって中身は救いようのない馬鹿ですが」
「あ、あげて落とすのひどいですよぅバレーボールじゃあるまいし……」
「据え膳じゃん。なんかあった時どうするの。僕らキャメロンのこと信用してるけどさ」
「キャメロンさんは紳士ですからボスみたいに婦女暴行したりしませんしー……ピギャ!ほら!これ!でこぴん!婦女暴行!」
「まじめに聞きなさい」
「何があるかわかんないんだからもっときちんとした格好で男の前に出なさいってことだよ」
「えぇーそんな夏休み前の教頭先生みたいな……きちんとした格好ってどんなですか」
「そうですね、毛玉だらけのズルンズルン伸びたセーターなど」
「ノボリさんの中でのきちんとした格好ってそんななんですか?」
「あなたのレベルに合わせただけです」
「わたしもっときちんとしてますし!」
「食指の動かない服着てってことだよノボリの言いたいのは……君だって目の前に美味しそうなショートケーキがあったとして、クリームの上のつやつやしたイチゴがやめて!食べないで!って言っても我慢できないでしょ?食べちゃうでしょ?」
「食べないですよそんな不気味なケーキ」
「まぁここまでは冗談として、わたくしのコート貸しますから被っていきなさい」
「ここまでが冗談ですか、前振り長すぎです。すっかり冷えちゃいました」
「僕のコートも貸してあげるよ」
「オギャー!前が見えない!」
「しょうがないですねぇ手を出しなさい」
「どこだっけ?休憩室?」
「うわーどっちのボスのだろう、コートちょういい匂いするーおいしそう……くんかくんか」
「嗅ぐんじゃありません」
「ギャッ!ちょ、今コートでごしごししたのどっちのボスですかオデコ痛い!!」
「僕じゃなーい。キャメローン!連れてきたよー僕の部下に手出さないでねっ」
「ハハハ!チッチャイ可愛イ後輩デスヨ、ボスジャアルマイシ」
「ぶはぁっ!ちんちくりんって言ったの誰ですか許すまじ!」
「言ッテナイヨ〜オイデオイデ、ココアアルゾ」
「あっキャメロンさん!わーいココア!」
「わたくし達まだもう少しあちらにいますので、何かあったら呼んでくださいましね」
「ハイ」
「はーいおやすみなさーい」
「……ウワ、オ前ボスノ匂イサセテ……」
「え?あぁそうなんですよー、ボスのコートっていい匂いしますよね、柔軟剤?」
「ウーン、ソウ思ウナラソウナンジャナイカ。アトオデコ赤クナッテルゾ、ドウシタ」
「ボスにやられたんです。まじパワハラですわー」