「トリックー、オーアー、トリートーぉぉぉぉ!」
「はい、さっきもらったアメあげる」
「わーい!アメー!!………違う…違う違う違います!こんなんじゃ足りないですー!何でこんなちっさいアメいっこ!?」
「ごめん、君用に用意してたクッキーあったんだけどさっき迷子の子にあげちゃった」
「うぐぅ…迷子に…?なら仕方ない、ですけどぉー……」
「うんごめん、でもほら、アメあげたじゃん許して?」
「アン?こんなアメちゃんいっこでわたしが満足するとでも…?今日はちびっこどもにお菓子巻き上げられまくってるからふところ寂しいんですよおやつ的な意味で!これじゃ足りないです足りないですトリックオアトリートですお菓子くれなきゃ悪戯しちゃうんですからね!」
「えぇー…でもお菓子ないんだもん」
「ほっおー……。わたし知ってるんですよ?クダリさんがいっつもポケットにチョコとかキャラメルとか入れてるの」
「あれも迷子用だし今日はあれすら売り切れちゃったよ」
「えー!?じゃあホントに全部ないんですか……!?トリート!トリート!」
「ありませーん。大人なんだから我慢して下さーい」
「嫌です、大人は我慢だなんてそんな暴論許しません」
「それこそとんだ暴論だよね!」
「クーダリさぁーん…。悪戯かお菓子か……お菓子がないなら、悪戯ですよねぇ?」
「え、だからアメ、」
「ほーっほっほっほ言い訳なんか聞きたくありまっせぇーん!さぁいらっしゃいヨーテリーヨーテリー、あーんどヨーテリー、ごー!」
「へ……ぅわ!ぁ、何なの!?」
「おーほほほさぁさぁどんどこぺろぺろしちゃってくださいヨーテリーちゃぁん!ペロキャンのひとつも用意できない男はペロキャンにされるのがお似合いですよ!ちなみにこちら、先日仲良くなった少年より本日限りで拝借してきたヨーテリーちゃんです。いかがですか、この毛ヅヤ!毛並み!そしてもちぷにの肉球!あぁん可愛い」
「ひっぁ、あ、ぁははは!…っんや、やめ、てっ、あは、はぁ、っ!?ひぐっ、ひ、あはは、ぁ」
「好物はモモンのみ、ナナのみ、あまいミツですってー。甘いものが好きなんですねー、クダリさん今日は甘い匂い振りまきまくってるしヨーテリーちゃん的にはおやつとしか見えないんでしょうねぇー、まぁコワイコワイ」
「ひっ、ぁ゛ぅ、ふッ、……ぁは、や、やだってばっ!んぐ、僕甘くないッ、たらぁッ!」
「人懐っこくじゃれるのが大好き、と。ふむふむ、なるほどぉー」
「……ッん、ぐ、ぁ……ふっ、ぅ……!ぁ……ひっ……ひぃ……はぁ……!」
「以上、少年からの手書きレポートでしたー。お勉強になりましたね!はいヨーテリーちゃんズ、ストップ―!……あらぁー?どうしたんですかクダリさん、ポケモンにじゃれつかれたくらいでぜぇはぁして……まさか興奮したんですか?」
「は……はぁ……はぁ……」
「おわぁヨダレでべっとべとじゃないですか。ヨーテリーちゃん、よくやりました!」
「………きみ……許さないよ……覚えてなよ…………」
「うふ、いい眺め!よし証拠写真撮って撤収しよう!ヨーテリーちゃん、ちょっと見張ってて下さいね。今ノボリさん来ると面倒だから」
「……はぁ………ッ」
「ヘイこっち向いてチィィーズ。……ん、よーし、いい感じ。…やだこれAVのパッケージみたい」
「ンッ……!?」
「さぁぁーて次はノボリさんだよね!やっぱね!何くれるかなー?さぁさぁ行きましょうかヨーテリーちゃんズ!」
「ノ、ノボリィィ…!」
「ハッハッハ、次はチョコレートでも用意しておくんですね…!あでゅー」
⇒ノボリさんとこ行くぞ!
「ノーボリさぁぁーん。トリッ」
「どうぞ」
「流石ノボリさんは話がはやいですね!」
「えぇ、危ない橋は渡らない主義なので。子どもたちに巻き上げられると思ってクダリのポケットからお菓子ちょろまかしておきましたし」
「セコッ!ノボリさんセコい!こそどろだ!」
「何を言いますやら、家計は同じ財布から出ているのですから。クダリのポケットに入っていようがわたくしのポケットに入っていようがお前のものは俺のもの理論でございます」
「いや絶対それそういう問題じゃないですって」
「いいのですよ」
「うーん…まぁよそ様の財布事情なんか気にしても仕方ないし、いっかー!それよりノボリさん、コレ何入ってるんですか?結構ずっしりしてる!」
「開けてみて下さいまし?きっと気に入ると思いますよ」
「ぃやったーい!えっへー、では失礼してー。ふふふん、たらったらった、らー……?」
「酢ネコブとフエンせんべいの詰め合わせです」
「……………」
「ハロウィンはほら、貰うのは甘いものばかりで、口が飽きてしまうでしょう?ですから酸っぱい物やしょっぱい物があると良いのではないかと思いまして」
「……おきづかいありがとうございます……」
「あ、何ならポップモコシボールもありますよ。パックのまま火にかけるとポップモコシが出来る優れ物でございます。バターしょうゆ味」
「…………せめてキャラメルモコシだったならッ……!ヨーテリーちゃん!ゴー!」
「え、何を…きゃあぁぁぁぁ!?なっ何事ですか!」
「うわぁんノボリさんのばかぁー!トリック!トリックトリック!いっけぇぇぇたいあたりからの最高速度でしっぽをふる攻撃!!」
「なんッ……はグゥッ!?ふ、ぅあ、あは!こら、ちょっとやめなさい、ふふ、ふッぅ!?」
「なんで全部しょっぱい系なんですか!甘味は!甘味を!甘味プリーズ!!」
「だって、あッぁ、あな、たッ!は!っん、ふ、ふふ、あは!どうせ、チョコ、だとかッ、甘いものばっ、か、り、でしょう!?そう、思って、被ら、なぁッ!い、よ、に、ふ、ふぅぅっ!」
「ありがとうございますでもバカー!素直にチョコ下さいよぉぉ!」
「っはぁッ、あっ、ふぅっ、んんッふふ、ふふふ、……ハァッ、ちょ、これッ、やめさ、せ、て、ッ」
「うぅっひどい、しかもこれどんだけあるんですか酢ネコブ!ていうか酢ネコブって!女の子に渡すお菓子で酢ネコブって!まぁ食べますけど!」
「ひッ、ふぁ、ぁぁぅ首はっ首はやめて下さいましぃ!弱いッん、ですッ!ふぁ、あ、耳もッ!ふふ、ぁう、ふふふ、やめっ!」
「ちくしょー酢ネコブぅ!ハロウィンで酢ネコブってテンションめっちゃサガルーワ……あ、でも美味しい」
「ひ……ひィッ………はぅ、ぐっ、……はぁッ!………んっ!」
「あ、イッケネー忘れてましたし、ヨーテリーちゃんおすわり!もうヨシ!」
「はぁ……はぁっ……お、覚えておきなさい………」
「おぉ怖い怖い。はいチーズ、ぱっしゃー。フッフーン、次は甘いお菓子を用意しておいて下さいねってことですよ!ではー!」
「…………許しません……」
⇒うーん、今年の戦利品はいまいち!
日付が変わる少し手前、10月と11月の境目の時間。彼女は酢ネコブの箱を枕にして(ノボリがあげたらしい。かわいくない)、今は仮眠室で眠っている。すぴょー、すぴょーと間抜けな寝息が聞こえるのはいつものことだ。薄暗い部屋の中、僕とノボリは言葉を発するのでなくアイコンタクトで互いの支度が整ったことを確認すると、音も立てないで彼女の横たわっているベッドへ近づいた。すぴすぴ、相変わらず全く警戒心もなく眠り続けている。ごそって横から衣擦れの音がしたので、僕も歯で噛んで手袋を外した。汚れちゃうと嫌だからね。さて、とほくそ笑んだところで、ひそひそ声のノボリが喋りかけてくる。
「シーツ汚れたらまずいですよね…タオルでも敷きますか?」
「あぁ…大丈夫じゃないかな、それやって起こしちゃったら元も子もないし」
「ですが」
「いいよ、汚れちゃってもすぐ洗えばいいんだし…染みになっちゃったらクリーニングでもいいし、シーツ一枚くらい捨ててもいいし」
「そうですね」
くすくす、くすくす、暗い中でもお互いの顔はちゃんと分かる。ニヤニヤ笑いあって、邪魔になるからネクタイはしゅるって抜いちゃって、もし途中で起きちゃっても暴れないように、一気に腕を押さえつけて、それで、
「ぅ……?んぁ、なにー?……む?…んん?あ、あれ?」
「お・は・よっ」
「うぇ…?クダリさん…?」
「おはようございます、まだ夜中ですけどね」
「あれー、ノボリさん……?え、なに?なにを……」
「やだなぁ…覚えとけってさ、」
「言ったでしょう?」
ギョッと暗闇で目を見開いた彼女のオデコにかかっていた髪を掻きあげ、すかさずあっためといたチョコペンで『肉』って書いてやった。あは、ざまみろ!ノボリはピンク色のカラーチョコペンでほっぺたにぐるぐる模様を描きこんでいる。寝起きでうまく頭が回っていないらしい彼女の頭を押さえつけて、さらにチョコレートの落書きを書きこんでいく。僕らを怒らせるとこういうことになるんだからね!
「ぎ、ぎゃあー!?ぎゃー!うわぁー!誰か…たったすけてー!!」
「叫んでも無駄でございます、誰も助けになんか来やしません」
「そーそ、ここにいるの僕らと君だけ、人なんか他にいないよ」
「ぎゃあー!ちょ、うわっ何かすごい甘いにおいする!チョコ?!」
「あっもう動かないで下さいまし、まだちゃんと固まってないのですよ!」
「そんな横暴な!」
ぎぃぃーって頭を反らせてなるべくチョコレートペンから逃げようとする彼女のさらけ出された首元に、『ヨーテリー』って書いてみた。ほんとはヨーテリーのブリーダー、って描きたかったんだけどね、ちょっとスペース足りなかった。それ見たノボリに「流石にヨーテリー扱いは…女性ですし…」って眉をしかめられた。ので、体温でとろとろするチョコを舐めとって消した。ぬるって皮膚の上を舌が這う感覚が気持ち悪かったのか、ひぐっと息を飲む音が聞こえた。僕がヨーテリーの集団からべろんべろん舐めまわされた時のくすぐったさの十分の一でも味わったらいいと思う。僕ががぶがぶと首のチョコレートを舐めとっているのをノボリが呆れた顔しながら見ていた。ちなみにその間ノボリは彼女の指先にチョコレートのネイルアートを施していた。