「もしも魔法がひとつだけ使えたら」
「ん?」
「何がしたいですか?」
「まほう?」
「そうです!一回だけ魔法が使えるんです、何がしたいですか?クダリさんは」
「えー…?」
「ノボリさんは睡眠を取らなくても生きていける体になりたいって言ってました」
「…それはどうなの」
「目の下真っ黒でした!目が死んでました!」
「うん、わかったありがとうノボリ寝かせてくるね」
「わたしがそんなノボリさん放置してくるわけないじゃないですかー!ちゃんと仮眠室に押しこんできましたよ!」
「よくノボリがおとなしく君に従ったね」
「頭がぐらぐら揺れてたので流石にやばいと思って帽子ガッて引き下げたら目が隠れた瞬間にガクーンって寝落ちました」
「ごめんノボリ…そんなに書類溜めてたなんて知らなかったんだ…」
「ねぇねぇクダリさんは一つだけ魔法が使えたら何をお願いしますか?何を叶えたいですか?」
「うーん……僕はねー…」
「あ、お願いごと増やせとか不老不死は駄目ですよ!面白くないから!」
「しないって。えっと」
「わくわくー」
「…………ないなぁ」
「えぇ!?ないんですか!?無いはずないでしょう!」
「だって…じゃあ君は?君は何をかなえたいの?」
「わたし?わたしですか?わたしはですねー!」
「うん。なぁに」
「そーらーをじゆうにー、とーびたいのでーす!」
「フフッ」
「何で鼻で笑ったんですか………!?」
「あーうんごめん、何でもないよ。空が飛びたかったら今度僕のアーケオスに頼んでそらとぼうよ。魔法に頼らなくても叶うよそれは」
「ヌオッ!わ、わたしもそらがとべるのですか…!?」
「うん、飛べる飛べる。だから一回だけのねがいごとはもっと大事なことの為にとっときなよ」
「クダリさん準備いいですか、ノボリさんが給湯室から戻ってきたら…」
「分かってる、『あれぇーノボリ、コーヒー?うわぁーマグカップにコーヒーとか…』」
「そうです、そこでうろたえるノボリさんをわたしが撮るので、」
「いや撮るのは別にいらなくない?」
「撮るので!そしたら続けて『コーヒー普通お茶碗でしょ!マグカップにはごはんだよ!』って言いながら」
「僕らのマグカップ茶づけを見せるんだよね!」
「そうです!」
「そんでノボリがえ?え?ってなったところで、」
「おもむろにノボリさんのコーヒーに乾パンを突っ込む……完璧です」
「オッケーばっちり……あっノボリ来たよノボリ!スタンバイ!」
「よーい、……アクション…!」
「ん?どうしたのです、ふたりして立って…座ってはいかがですか」
「あれェー?ノボリってばコーヒー?うわぁーマグカッ」
「いえ、これはコーンポタージュです」
「コ、コーンポタージュ?この陽気にコンポタ?」
「いいやまだ大丈夫、まだ大丈夫!まだ想定の範囲内です!」
「えっとあの、コーヒ…ンポタならお茶碗で…………ノボリなにそれ」
「はい?何とは?」
「ノボリさん、マグカップに何か赤いものが入ってますけど、それほんとにコンポタですか」
「あぁこれはジャムです」
「コンポタにジャム!?」
「何で入れたんです!?」
「いえ……話せば長いことながら」
「あぁっしかもマグカップに刺さってたこれ、スプーンかと思ったらフォークだ!」
「おまけにジャムの下、スープがあると思ったらトーストがみっちり入ってますよ!?」
「えぇ……クルトンが無かったのでトーストを代わりにコーンポタージュへ入れようと思って」
「……スープ入ってないですよ?」
「そしたらコーンポタージュの粉末もなかったのですよ」
「夏だからね」
「せっかくパンも焼いてしまったのでジャムでも付けて食べようかと」
「コンポタ要素ないじゃないですか」
「あなたたちは何ですか?何かいい匂いがしますけど」
「えっ……あ、これ…お茶漬け…」
「ほう、マグカップでお茶漬けですか。片手で食事ができるではありませんか、便利ですね。わたくしも今度やってみましょう」
「クダリさん、完敗です」
「まさか褒められるとは思わなかったね……」