「25光年、17光年離れてるからといって、願い事が叶うのは50年後、34年後になるってことはないと思うんです」

「あぁうんそうだね、ほらアイスコーヒー買ってきてあげたからこれ飲んで目さましなよ」

「だってねクボリさん、きっと願いの走る速度って光より速いですよ。ほら言うでしょう『のぞみはひかりより速い』って」

「誰クボリさん。僕クダリだけど」

「だからね、ほら、今から星に願いごとしましょう。ちゃんと短冊作ってきたんです。笹は無いのでかわりにハンガーに短冊つけましょうね!セロテープで!」

「だーめ、やるならその報告書終わらせてからね」

「フンフンフーン、何にしよっかなぁー!お金持ち…有名人…夢がない、もっとこう、楽しくなれるのがイイナー」

「はいはーい、お仕事してください」

「待って待って、これ書いたらまた続きしますから!えぇと………ん、よしこれにしよう。………ぐふぐふぐふ!」

「何今のキモいチラーミィみたいな声」





⇒わたしの上司が、女の子になりますよーに!なんつって!







目が覚めたら6時ちょっと前だった。うわぁどうしよう完全に遅刻した!と思って急いで起きあがったけどそう言えば昨日仕事終わらせてからそのまま仮眠室行って寝ちゃったんだった。つまりここは既に職場で、今日はこの時間なら悠々出勤、というかもう出勤しているんだって!ややこしいな!ぎゅーって伸びをしたらぺきぺきって背骨が鳴った。何か背骨痛い。ていうかワイシャツとジーンズで寝たせいか全身だるい。朝ごはんどうしよう。昨日夜食にって買ったカロリーメイトだけで昼まで持つ気はしないしー、あとで何か買ってこよっと。適当に身支度を整えて、鞄を置きっぱなしにしてる休憩室に戻った。





⇒がちゃっ





「お、おはようございます……」

休憩室のドアを開けたら見知らぬべっぴんさんがソファにふたり、どっかりと座っていた。灰色でサラサラの髪の毛につやつやの唇、細身の体にまとっているのは、ぶかっとしたサブウェイマスターの、コート……?

「おはようございます」
「おはよ」
「あ、あの……大変申し訳ありませんがサブウェイマスターのノボリとクダリはまだ出社しておりませんのです、けど……あ、お約束などされていたのでしたらすぐ呼び出しますが」
「わたくしがノボリです」
「そして僕がクダリでーす」
「………は?」
「おはよーございますボス、すんません何かワシ今日女の子の日来てもーたみたいなんですけど、ハハハハハ意味わからんですよねぇ見て下さい背もこんなちっこうなってしもて……ボスゥゥゥゥゥ!?」
「ええいあなたは誰です!名乗りなさい!」
「クラウドです!クラウドで………ウワァァァ!!ノボリボスだけかと思ったらクダリボスまでちっこぉなってるやないですかぁぁぁぁ」
「見て!おっぱい!ぽいんぽいん!」
「ちょ、おま、クダリさん!いくら女の子しかいないからってワイシャツ開けちゃメッ!」
「オハヨウゴザイマスボスゥゥゥゥゥ!スミマセン信ジテ下サイキャメロンデスケド今日朝起キタラ女ノ子ミタイニナッテテ!」
「きゃ、キャメロンさぁん!?テンパってるわりには化粧ばっちりしてるじゃないですか!?ていうかメイク道具持ってるってことですか!?」
「お、おはようございます…ボス、聞いて下さいボク急に性転換したみたいで」
「ジャッキー!かわいい!ちっちゃいー!」
「外の世界では頻繁にあることなんですか?」
「そんなわけないでしょう」
「オハヨウゴザイマスボス!大変ナンダ、背ガ縮ンデ、」





⇒なにこれ!




「えぇ、えぇ……大体把握致しましたよ、つまり我々全員、何故かはわかりませんが、女性化してしまったと」
「何だろうね?プラズマ団の仕業かな?」
「こんなことが出来る団体ならとっくの昔にイッシュ制圧など出来ているでしょう」
「ボスーゥ、ドウシマス、駅締メマスカ?」
「それは……できません。バトルトレインの運休ならまだしも一般の路線は通常通り動かさなくては……」
「そう……ですよねぇー。でもノボリさぁん、みんな女の子になっちゃってるしかなりきついと思うんですけど……どうするんですかー?てかみなさんめっちゃちっちゃくなっちゃってマジかわいいんですけど!ちっちゃい!わたしよりちっちゃいとかまじかわ!」
「………さっきから思っていたのですがあなた、どなたです?変質者ですか?」
「ていうかあの子どこいんの?また遅刻?」
「おいちょっと待てよいじめですか」

何かを察したようにキャメロンさんがさっと手鏡(ラインストーンとかクリスタルでごてごてのキラキラにデコられてるやつ)を差し出した。覗き込むとそこには、

「……………な………」






⇒なんじゃこりゃぁぁぁぁぁ!!








鏡に映ったのはイケメン……ではなく、フツメンでした。何が問題かと言うと、顔の作り云々でないのです。おかしいなぁ、わたし女に生まれたはずなんだけど!

「つまり…………男性化してしまったと、そういう」
「なんじゃこりゃあぁぁぁぁ!!」
「うるさいよ、それさっき聞いた」
「なんじゃこりゃぁぁぁぁ!」
「はいはい」

つまり、なんというか、わたしたち全員がその、性転換、というか……してしまったみたいです。どうすんだ。これどうすんだ。元に戻れるんでしょうね!

「ねぇ、君……男の恰好でその口調はオネェっぽいよ」

う、うるさいなぁー!







⇒朝の通勤ラッシュ!…等は割愛!







お昼です!結局そういえば朝ごはんに食べようと思ってたカロリーメイトがそのままだったので、今それをモリモリ食べてます!二袋入りフルーツ味、やっぱこれだけじゃ全然たりねーわこれ……。

「お疲れ様です」

ソファにどっかと座って、ノボリさんは長くて細い脚を綺麗に組んだ。ヤダー超美人。

「それだけでお昼、足りるのですか?」
「……あい?」
「わたくしお昼を作って来たのですが一緒にいかがですか」
「食べます」

やべぇな!女の子の手料理とか男のロマンじゃないの……ってわたし男じゃないし!いまはちょっとアレだけど性別は女だし!

「…どうしました」
「いえちょっと……アイデンティティの崩壊?みたいな?」
「叩くと赤くなってしまいますよ」
「大丈夫です、そんな柔なほっぺしてないです」

すっとわたしの頬に白い指を伸ばしてくるノボリさんにどきぃっとしてしまった。び、美人は何しても色っぽいぜ!しかし女の子になっているせいとはいえ、ノボリさんを見降ろすというのはなかなかに新鮮な体験である。

「ほらやっぱり……少し熱を持ってしまっているではないですか。冷やさないと腫れますよ」
「いいいいいえ大丈夫ですし!全然問題ないですハイ!」

同性愛のケはないけどドッキドキしてしまった。流石我らがボスは日常所作から色気がやばい。

「………なに阿呆のような顔してるんですか。お昼いらないんですか」
「いっいりますー!いります食べます!」

口に突っ込まれた卵焼き(アーンして、なんていう色っぽいものじゃなくガチで突っ込まれた)はノボリさん(男)にもらった卵焼きと同じ味がした。同じ人だから当たり前なんだけどさ!何かー、ふっしぎィー。







⇒バトルトレインが運行しないと結構ヒマ






「たいくつ!」
「クダリさんちょっと……ぱんつ見えちゃいますよ」
「んー」
「ていうかクダリさん腰やばー!ほっせー!抱きついていいですか………ハッ!?」

クダリさんは女である(現在)。そしてわたしは男である(同じく現在)。昨日までだったらまぁ、クダリさん腰ほっせぇー!って言いながら抱きついてもいやー!変態!で許された……と、思うんだけど、今のこれだとこう、傍目にはガチで襲ってるようにしか見えないんじゃないかなこれ。完全にセクハラだよ。伸ばしかけた腕を瞬速でひっこめて「…何?」「何でもありませーん!」ううん、なんか調子狂っちゃうなぁー!

「バトルしたい、スカート鬱陶しい、おっぱい重い」
「クダリさんそれはわたしの心をえぐる暴言ですよ!」
「最初っからえぐれてるでしょ君の胸は」
「あっそうですね今わたし男だしね!」
「いやそういう意味じゃなく女の時もえぐれて」
「シャラァァーップ!」





⇒帰宅ラッシュも終わりまして、ひといき






「肩凝ったー……」
「脚が痛いです……」
「お疲れさまでーすノボリさんクダリさん。お茶どうぞ」
「あ、ありがとー」
「ありがとうございます…ハァ」
「どしましたノボリさん。ため息つくとイイ女が台無しですよ!……いや、むしろ気だるげでえろくていいかも」
「お黙りなさい」
「ごめんなさい」
「やーでもほんと、ヒールって結構辛いし…疲れたねぇ」
「あーそうですよね、慣れないとかっくんかっくんよろけますし」
「一日くらいなら楽しいけどずっとこれは…」
「……………」
「……………」
「……………」
「戻れなかったら、どういたしましょう…」
「イヤァァァノボリさん怖いこと言わないで下さいよぉぉ!」
「えっ君は戻れなくても大したことないでしょ、だって元々男みたいなもんじゃん」
「クダリ!いくらなんでも女性に失礼です!」
「そうだそうだ!まぁ実際その通りかもしれませんけど!」
「自分で言うの!それ自分で言うの!」
「いやいや待ってクダリさん、実は結構わたしにとっても深刻な問題なんですよねこれ」
「えー、何が」
「だって………このままじゃお二人にセクハラできない…」
「……え?何で?いやセクハラしてほしいって意味じゃないんだけど」
「いやぁだって、今わたし男ですよ?そしてお二人は女性……ここで手を出したらガチセクハラじゃないですか!」
「普段のあれもガチセクハラですがね」
「いやあれはノボリさんたちが抵抗しようと思えば振り払えるレベルなんでセフセフです。でも今のわたしはアウトです」
「ほほー……」
「ふぅん」
「だからはやく戻ってくれないと困るんですよぉぉー!どこへ行ってしまったのわたしのヘブン生活!」
「ノボリノボリ、今なら普段の仕返ししても」
「反撃されませんね」
「………………………アレッェェェェちょっと待って下さいノボリさんクダリさんどうしてそんなに笑顔なの?ちょ、やめて下さヒギィィ!いやぁぁぁ助けてぇぇ!美女に剥かれるとか男として据え膳だけどなんか間違ってる!すごく間違ってる!」
「あはははー!おなかおなかー、あ!腹筋、男の僕よりない!」
「ふぅん………成程、確かに無抵抗の相手を良いようにできるというのは意外と……ウフフフ」
「きゃーやめて!クールなノボリさんに戻って!」
「男の声できゃーとか萎える……まぁ萎えるモノもないけどあははー!」
「あなた普段ちゃんと鍛えてますか?背筋全然ないじゃないですか……胸筋も」
「それはほら、もともと貧乳だったからじゃない」
「あぁそういうことですか」
「ちょっとそこ人にまたがってなに罵詈雑言……ちょ、クダリさんぱんつひっぱんないでー!」
「いいじゃん僕らいま男同士!恥ずかしくない!」
「あんた今女の子でしょうが!いやー!変態ー!放して―!」
「嫌なら殴って逃げなさいほらほら、所詮女の細腕です、今のあなたなら簡単でしょう」
「こ、こんなかわいい子たちを殴るなんてできるかってんですよッノボリさんネクタイ引っ張らないでワイシャツに手突っ込まないでー!」





⇒カチッ!





時計の短針と長針がてっぺんで合わさる微かな音がした。途端にノボリさんとクダリさんの体がぴかーって光りだして、

「え、何これ進化!?僕進化するの!?」
「うわ、ちょ、眩しッ!どどどどうしたんですかノボリさんクダリさん!?人体発光ですか!イルミーゼですか!」
「きっきみも光ってる、ていうかこれ、何、」
「…………おや」

数秒で眩しい光がおさまって、そこにはもとの姿に戻ったノボリさんとクダリさんがいた。さっきまで女の子だったせいで、ぱつぱつのスカートだしワイシャツもぴちぴちしてるしサイズのあってないヒール履いてるし、どう見ても変態である。

「あー!戻ってる!よかった!……プッ君シャツもズボンもぶかぶか、あはは」
「…いやクダリさんの格好の方が笑えますよ」
「ギャー!?そっか僕スカート…!」
「ノボリさんいい加減シャツから手出してくれます?」
「…………ハッ!?ももももも申し訳ございませんッ!」

ソファに転がされたわたしに跨ったまま、ふたりの女装男は顔を赤くさせたり青くさせたりと忙しそうだ(女の子の時は軽かったのにもとに戻ったらとても重い!)。どいてください!って肩を押してようやく身を起こした。ふぅー。…………プッやっぱふたりがサイズのあってないスカート履いてるとか、うける!

「あっ!ちょっと待って下さいサブウェイマスターがスカートってめっちゃレアなんじゃね、カメラカメラカメラ!」
「えっ!?やや、やめて!だめ!」
「いやーんノボリさんのスカート姿ー!生脚ー!脚線美ー!細腰!!最高!」
「きゃあぁぁ抱きつかないで下さいましぃぃぃ」

あーやっぱこれだな!ノボリさんの腰に抱きつきつつクダリさんにカメラ向けて、ニヤニヤが止まらない。女の子のノボリさんとクダリさんも超絶かわいかったけどあの姿は年に一回くらいでいいよ!





⇒がちゃり





「ボスーゥ!俺戻リマシタヨ見テクダサイ元通………失礼致シマシタ」

いつも通りの男用制服に身をつつんだキャメロンさんが休憩室のドアを勢いよく開いて、それから秒速で勢いよく閉めた。きょとんとしてノボリさんを見上げたら、真っ赤な顔して肌蹴てたわたしのワイシャツの前をしめてくれた。ははぁ、キャメロンさんはあれだな、きっとわたしがノボリさんとクダリさんの写真をまた撮ってるから巻き込まれないようにって席を外したんだろう。空気が読めるっていいことだと思うよ!

「しっ、下着をつけていないんですか……!?」
「は?だってさっきまで男だったんですよわたし……ブラしてたら変態でしょうが。それにちゃんと透け防止のシャツは着てるしィー……問題ないでしょう?え、ないですよね?」
「あるよ馬鹿!」

ぎゅうぅぅって腰にしがみついたらさらに真っ赤になったノボリさんを見てピコーンときた。さてはこの人、ブラをしているのか……!?そうだよね!だってさっきまで女の子だったもん!撮る!!腰に抱きついた体勢のままずりずり上半身に移動して、彼の襟元に手を伸ばす。

「やっやめなさい!降りなさい!せめてしたっ下着を着てきなさい…!」
「大丈夫ですよノボリさん!ちょーっとだけ、ちょーっと撮るだけですからねぇ!痛くないですからねぇ!!」
「ノボリから離れて!離れるの!離れなさい!」
「イヤーッ!そんなに嫌だったら殴ってでも抵抗してみなさいってんですよ!」
「で、できるわけないでしょ!」

ありがとう織姫彦星!リア充爆発しろとか思ってごめんね!末長くお幸せに!


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