近くに行きたい隣に座りたい顔を覗き込みたい。




「あ、クダリさん!クダリさん、これ美味しいですよー」



もりのヨウカン!お取り寄せしたんですよ!ソファに座ってにこにこ笑う君を、ドアの前に突っ立ったまんまぼーっと眺めた。お茶淹れますからクダリさんもちょっと休憩しませんか、なんて言って立ち上がった彼女の腕を、歩み寄って捕まえる。「?クダリさんお茶要らないですか?」そのまま元通りに座らせて、その隣に腰を下ろした。窮屈なネクタイをちょっとだけ緩めて、帽子も取る。オールバックにしていた髪をぐしゃぐしゃとかきまわして一息ついて、彼女の顔をぐいと覗き込む。


みつめたいみつめられたい触れたい撫でたい抱きしめたい。


「んん?何ですか?………ふ、ふきげん?」



おろおろと不安そうに笑いながらじっとこちらを見返してくるその目を無表情に見つめて、まつげの数も数えられるくらい顔を近づける。彼女の腿の横に手をついてぐぐぐと上体をかがめ寄ったら、困ったような焦ったような叱られてるポケモンのような微妙な表情でついと視線を逸らされた。ただでさえ僕の方が彼女よりだいぶ体が大きいので、彼女からしたら僕に覆いかぶさられてるような気分だろう。怖いのかな。ちらちらと顔を背けたまま視線だけよこしてくるその目もとに親指を押しあてる。ほっぺ、やわらかいなぁ。こちらへくいと顔を向けさせて、指先で二、三回撫でる。生まれたばっかりのポケモンが親に優しく小突かれた時みたいに、むむむと目を細めて僕の手のひらを受け入れてる彼女にちょっと安心した。こどもみたいだ。脅かさないようにそーっと腕をまわして軽く抱き寄せる。




キスしたい。




「なんですかー、あまえんぼクダリさん!こどもめ!」



ぎゅーと抱きしめ返してくる彼女の声音には僕を警戒する色なんか微塵もなくて、だから僕は躊躇した。にこにこにこ、寂しがり屋さん!笑う彼女を怖がらせたくなくって、やっぱりいつも通り僕は笑顔を作るのだ。


「えへへへ、さむいんだもん!ぎゅー!」
「きゃー!あははは、ぎゅー!」
「ようかん食べたい、お茶ちょうだい?」
「クダリさんが離してくれなくっちゃお茶入れられないんですよーぅ」
「ヤダヤダ、寒い」
「えーここ暖房入ってるのに!」
「しらなーい、ぎゅー」



苦しいー!だなんて僕の腕の中ではしゃいでるそのつむじに触れるか触れないかのキスをひとつだけ落として、ぱっと彼女を解放した。あはははは、クダリさんちょっと待ってて下さいねー!立ちあがってぱたぱたと給湯室にかけて行くその背中をにっこり笑って見送ってから、ぽふっとソファに背中を預ける。


「……………」


天井の蛍光灯のあかりがやけに眩しくて目を閉じた。かちちち、ガスレンジに火を付ける音が聞こえる。ちくたく時計の針が時間を刻む音がする。


「おじゃまんぼー」
「えっ?」



音もなく寄って来た彼女がぼすんと僕の隣に腰を下ろす。あ、ちょっとびっくりした。


「お湯沸くまで、ちょっと待って下さいねー」


そのまま、僕の腿の上にころんと上半身を横たえた。


「………何、あまえんぼ」
「クダリさんあったかー」
「君の方があったかい」
「むふふふふふ」



ニヤニヤ笑ってる彼女がばかみたいに愛しくて、つい頬が緩む。手袋を丁寧にはずしてその髪を撫でた。


「いひひひひー」
「下品な笑い方」
「おほほほほほほ」
「マヌケ」
「何ですってコラ」





あったかい。






なんでもない今日と明日と明後日とその先もきっとずっと君と










12/23 一周年ありがとう

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