「じゃーん!みてみて!かっこいい?」
「クダリ…いい歳した大人がそれはちょっと」
「えー、がんばってくりぬいたのに…ねぇ、あの子は?今日遅番だっけ?」
「でしたね」
「そっか!きっとあの子もなんか仮装してると思うなー!何着てくると思う?」
「が、本日風邪で欠勤だそうです」
「えー!何で!」
「だから風邪だと言っているでしょうが」
「えー、うっそぉ…お菓子せっかく用意したのに。喜ぶと思ったのにー」


本当ですよ、こっちの予定まで狂わせて迷惑な人だ。自分には甘すぎる飴の詰まったキャンディポットがポケットの中でやけに重い。











「はぁーい、ッゲホ、どなた…へくしゅ!あれ、ノボリさん!」
「あなたね、せめてスコープ確認してから扉開きなさい。変な人だったらどうするんですか」
「こんな時間に部下の家庭訪問ですか、ノボリさんは変な人ですね。扉開けない方がよかったですね」
「何言ってるんですか馬鹿、これいらないんですか」
「なんですかソレ」
「ハートスイーツです」
「やだごめんなさいいつまでも玄関にお客様を立たせておくなんてわたしとした事が!どうぞ中へ入って下さいノボリさん、ささ、どーぞ!」
「どうも、お邪魔します」


やったー、ハートスイーツだチョコだチョコだ、と腕に抱えた紙袋に目を落としてニヤニヤと笑っている彼女を眺めれば、なるほど風邪をひいているというのは本当らしい。いつもよりも頬が赤い。いや、パジャマを着たままでドアを開けたという時点で今の今まで寝ていたのだというのを推し量るには十分なのだが、どうも彼女が病気にかかるというのは、いまいちピンとこなかったのだ。


「熱、どれくらいあるんですか」
「何でハートスイーツなんですか?誰かのおみやげですか?」
「人の話聞きなさい。ハートスイーツはクダリからです」
「え、クダリさん?なんだろー、お中元…的な…」
「ちょっと、あなた熱どれくらいあるんです」
「え?お茶ですか?ああはい、座ってて下さい今用意しますからね、ハートスイーツ食べましょうよ夜ですけどえへへへ……夜にコーヒーは眠れなくなっちゃうからー、えっと、紅茶なら大丈夫で、んギャッ!なんですかノボリさんわたし大丈夫ですよ!」
「………熱い!」
「いやいや違いますってわたし平熱高いだけですし、」
「これが平熱とは言わせませんよ、何度あるんです」
「……39度……」
「39度………!?」
「7分……」
「40度じゃないですか馬鹿!寝ろ!」
「やだやだチョコ食べたい!」
「わがまま言わないで下さい、チョコは明日!暴れるな!ベッドどこです!」
「チョコ逃げちゃいます!」
「逃げません!大人しくしなさい!」
「うそだっわたしが寝てる間にノボリさんがチョコ、全部食べちゃうんでしょう、う、うえぇぇぇん」
「泣かない!ほら毛布かけて、はい」
「うっううぅぅぅ、グスッ」
「はやく風邪治しなさい」
「うぅ……あ、ねぇ、なんでクダリさんチョコくれたんですか?ていうかなんでノボリさんが届けに?」
「今日がハロウィンだからで、クダリがあなたに巻き上げられると思って用意しておいたチョコで、クダリは本日夜勤なのです。はやく寝なさい」
「……アハン?」
「クダリの代わりにハロウィンのお菓子をわたくしが届けにきたのです。寝ろ」
「あー。……え、そっか今日ハロウィン!」
「え、忘れていたのですか?珍しいこともあったものですね、あなたなら率先して参加するイベントじゃないですか」
「あららー。うっかりしてましたねぇ。ギアステーションでなんかハロウィンっぽいことしたんですか?」
「しませんよ。…あぁ、クダリは一日中カボチャを被ってましたけど」
「え、カボチャ?ジャックオランタン?」
「はい」
「ぶっはー!えぇぇ、すっごく見たかった!写真とか撮ってないんですか?」


寝ろと言っているのに、まったくよく回る口である。












「撮ってませんよ。いいからはやく寝なさい。ドア閉めたら鍵は郵便受けに入れておきますからね?」
「えー、帰っちゃうんですかまだ10時なのにー」
「風邪をうつされたらたまったもんじゃありませんから」
「む………あ、ノボリさんトリックオアトリートー」
「………」
「あれあれー、お菓子無いんですか?イタズラかなー」
「…さっきハートスイーツ渡したじゃないですか」
「あれはクダリさんからのでしょ、ノボリさんからは貰ってないですもん。イタズラ決定ですね…!」
「病人が何言ってるんですか。鍵は郵便受けに入れときますからね、忘れずに回収して下さいね」
「ねぇねぇトリックオアトリートですってば」
「はいはい」


ぶつぶつ言いながら布団の隙間でもぞもぞと寝がえりを打つ彼女を見て、ふと悪戯心がうずいた。


「トリックオアトリート」
「え?」
「お菓子を渡さなければ悪戯しますよ」
「え、えぇー……あ、じゃあさっきのハートスイーツ、いっこあげます」
「あれはあなたがクダリから受け取ったものでしょう、貰い物なんて駄目です。ノーカウントです」
「んんん…あと家にあるのって袋半分開いたクッキーくらいしか…」


ごそ、とコートのポケットへ手を突っ込み、キャンディポットからピンク色の飴玉を取り出した。「なんだー、ノボリさん飴持ってたんじゃないですか」おしゃべりばかりしているその口にぽいと放り込んで、それから、












「〜〜〜!?」
「………っは、甘いですねぇ、これ……」
「なっなっなっノボリさっ」
「顔真っ赤ですよ、熱上がったんじゃないですか?大丈夫ですか?」


大丈夫じゃないですよと叫びながらぼふんと布団に頭まで潜ってしまった。ので、今さらこみ上げてきた羞恥心のせいで彼女に劣らず真っ赤であろう自分の顔を手のひらで覆う。あー、あー、あー、あつい。彼女の熱が移ったかのようだ。「風邪引いちゃっても知らないんですからー!風邪菌派遣してやるんですからー!」あなたから与えられるものだったら例え風邪菌だってなんだって愛おしくってくすぐったくて、こんなことでどきどき出来てしまう自分は病気かもしれない。そうですね、お菓子のかわりにその風邪貰ってあげますから、だから毛布どけなさい。キスできないじゃないですか。





























朝だ。朝。朝である。まごう事なき朝である。
自室のカーテンから差し込む光がやわらかい色で室内をぼんやり照らしている。


「………………夢ですか、そうですか…」


ピリリと枕元のライブキャスターが鳴る。彼女だ。なんとなく気まずくて、8コール目でやっと電話をとった。


「すいません、風邪引いたんで休ませて下さい……」




出勤前にキャンディの詰まった可愛らしいポットを買おうと思う。R9あたりなら置いてあるだろう。彼女が体調を崩しているというのに不謹慎なのだが、思わず少し頬が緩んでしまった。夢に頼るだなんて女々しいですかね。









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