君がいないというただそれだけで、こんなにもこの街は色を失うのか。肌にまとわりつく湿った空気と灰色の空が、まるで僕の心を映し出しているようだ。ついこの間までは家に帰るのがとても楽しみだったはずなのに、今はむしろずっとギアステーションに居たいくらいだった。君のいないあそこへ戻ったって、楽しくなんか、ない。

ああ、もう一緒に借りてきた映画観たり夜に酒盛りしたり朝おはようって新聞片手に寝ぐせが付いたままの頭で笑い合う、そんな安っぽくてありふれた幸せはなくなっちゃったんだ。こころにぽかんと穴のあいた気分。悲しいというよりただ寂しい。家々に灯る暖系色の光が、余計僕をうすら寒い気持ちにさせた。


首元を撫でる冷やかな風が不快で、けど家に着いてもあの暖かく洩れる光はなくて、じゃあ僕はどうやって温まったらいいの。






「クダリさんおはようございます!」
「…おはよ」

ぴかぴかした笑顔の君が僕に笑いかける、朝のギアステーション。憎たらしいな、僕は昨日君の事ずっと考えて考えて考えすぎて寝不足だっていうのにさ!


「クダリさんクマ出来てる!寝不足ですか?何かあったんですか?」
「君が、」


君が引っ越しなんかしちゃうのが悪いんだ!もう一緒に出かけたり帰り道食べ歩いたりできないじゃん!せっかくお隣さんだったのに!


「ヤですよ上司とお隣さんなんて、気を使うじゃないですか!」
「僕がいないと部屋にゴキブリ出たとき大変だよ!どうすんの一人で!」
「なんとかしますもん!一人でできますもん!」


ばかばか、君は僕がいなくっちゃ駄目なんだから、絶対そんなの無理なんだから!戻ってきてよ!


「ヤです。今の方が駅近いしー」
「じゃあ僕も引っ越す。君の隣住む」
「隣空いてませんからね。人住んでますからね」
「金に物を言わせる」
「クダリさん最低…!!」


だって君の一番近くに居たいんだよ!







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