もっと取り乱してしまうかと思ったけれど、案外、あっけないものだ。

君がノボリを好きってことなんて知ってた。僕はいつだって君を見てたんだから、そんなの気付くに決まってる。君と僕の視線が交わらないことだってわかってた。だって君はいつだってノボリを見てたんだもんね。君がふとした瞬間、何気ない一瞬、ノボリに投げる視線がどれだけ羨ましかったことか。本当に本当に本当に、君の『好き』を貰えるノボリがとっても羨ましくて憎たらしくて妬ましくて切なくて、けど時々僕へ向けてくれる君の笑顔ひとつでそんなドロドロした嫌な感情とか全部無くなっちゃって天にも昇る心地になって、ドキドキして眠れなくなってしまって、そんな夜が何度あっただろう。君の言葉が表情が僕に向けられた、たったそれだけのことで、僕がどれだけ幸せになったか、君は想像もしないんだろう。僕が君を好きだったこと、今も変わらず好きだってこと、君に伝えることはもうないんだね。
ノボリのことも君のことも大好き。大好き。大好きだよ。だから笑っておめでとうって言うね。おめでとう2人とも、幸せにね。




なんて、そんなのウソに決まってる。

笑顔でおめでとうなんて言えない。僕よりノボリを選ぶ君なんていやだ。そんなの嫌だ。耐えられない。辛い。悲しい。ノボリと幸せそうに笑いあう君なんて不幸になっちゃえばいい。嘘。幸せでいて欲しい。それも嘘。ああ君なんて好きにならなければ良かったのに。好きにならなかったらこんな嫌な僕はいなかったのに。心からお祝いしてあげられたのに。僕の好きな人は僕を好きじゃない。悲しい。悲しいね。君が僕を見てくれることなんて無いんだってわかってたんだから、もっと傷の浅いうちに諦めたらよかったのに。君と話すたび君が笑うたび、辛くなることなんか分かり切ってたのにどんどん好きになってしまった。ノボリと話す君を見て笑う君を見て頬を染める君をみて、泣きたくなるたびに恋心なんて捨てたくて捨てたくて、でも君の姿が目に入るたび君の声を聞くたびまたじわじわ好きになってしまって、堂々巡りだった。不毛だ。救いようもない。どうしようもない。いっそ心のないロボットで生まれたかった。そしたら君と会いたくて君に触れたくて、心がギシギシいうこともなかっただろうに。僕の心を置き去りにしたまま僕の口は勝手に祝福の言葉を吐きだしていて、それをぼんやりした頭の片隅で認識する。君たちが好きあってることなんて、僕とっくの昔に知ってたんだからね!もう、二人ともドンカンなんだから!どうして君はノボリを選んだんだろう。どうして僕じゃなかったんだろう。僕だって君のことすごくすごくすごく好きだったのにな、君のこととっても愛してたのにな、ノボリと僕の何が違った?君の笑顔が今はただ辛い。僕の周りにだけ氷の壁でも張ったように二人が遠い。ぼわぼわしていて現実味がない。心に痛覚が存在するかのように、心臓のあたりがずきずきと痛かった。僕の気持ちなんか知りもしないで幸せそうに笑ってる二人が憎らしかった。辛かった。悲しかった。でもやっぱり心底嫌いになんかなれなかった。嫌いになってしまいたかった。心にぴったり蓋をして無理矢理とびきりの笑顔を作る。まぁドンカン同士お似合いだよねー!照れたように笑う君と恥ずかしそうに少しだけはにかむノボリと、何て微笑ましい光景だろう。にこにこ。今にも崩れてしまいそうな笑顔はちゃんと自然に見えているだろうか。

おめでとう、幸せにね!
ごめん、嘘。





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