風呂からあがったら携帯への着信を示すライトがぴこぴこ点滅していた。髪をタオルで拭きつつ、パソコンの電源を入れる。携帯を開いて確認したが、やはり電話の発信者は彼女だった。パソコンとケーブルでつないでから、再生ボタンを押す。数瞬の沈黙の後、彼女の声が流れ出した。


「ノボリさん、こんばんは。今頃ノボリさんは何してるのかな。お風呂とかですか?お仕事お疲れ様です。今日も挑戦者いっぱい来てましたね!私、ノボリさんのこと観てたんですよ。気付いてました?ノボリさんってば今日もすっごくかっこ良かった…うーん、はやくノボリさんお風呂あがって下さいよー。声聞きたいです!寂しいじゃないですかー……あっごめんなさい、わがまま言うつもりじゃなくって…!ノボリさんのことが好きなだけですから!ごめんなさい!ゆっくりお風呂入ってくださいね!そういえばノボリさんはシャンプー何使ってるんですか?今度一緒のやつ買いに行きましょうよ!あ、心配しなくても大丈夫ですよ!ノボリさんは私の事分かんないと思いますけど私はノボリさんのことちゃんと分かりますからね!えへへ、買い物行って、その帰りにごはんとか食べましょう!美味しいイタリアンのお店があるんです!楽しみだなぁノボリさんとお出か」


ここで留守番電話の録音時間が終了したらしい。唐突にぶちりと終わった言葉を聞き終わってから、録音されたメッセージをUSBに保存する。これにもだいぶデータが溜まってきた。今度新しいものを買いに行かなくては。マウスを操作して、デスクトップにちりばめられたアイコンの中の一つをクリックした。ぱっと画面いっぱいに広がったウインドウは16の景色に分割されている。…あぁ、彼女も今入浴中でしたか。


かちりと風呂場を映す窓をクリックしてその画面だけを表示させた。浴槽に入って湯につかる彼女が見える。換気扇を回しているのだろう、ファンの黒い影が画面を規則的に遮る。ああクソ、マイクも入れておけばよかったですね。画面を食い入るように見つめる。ぱしゃぱしゃと、音は聞こえないが、入浴剤で白く染まった湯を跳ねて手遊びする彼女。あああああああ触れたい。あの上気してピンク色に染まった柔らかそうな腕に胸に脚に頬に触れたい口付けたい噛みつきたい。鼻先が触れそうなくらい画面に顔を近づけた。彼女を良く見たいと思っての行動だったのに、目を近づければ近づけるほど液晶画面の彼女はただの光の点の集合体になってしまって腹立たしい。がっかりしてどさりと椅子の背もたれに身を預けた。鼻先をかすめる香り。ふわり。


自分の髪から漂った彼女と同じシャンプーの匂いについ興奮してしまったのでパソコンの画面はそのままに彼女が残した愛の言葉いっぱいの留守番電話メッセージを聞きつつ自らを慰めた。手に残った、体温の残る白濁は、彼女が使っているものと同じメーカーのティッシュで拭きとって、彼女とお揃いの水色のゴミ箱に捨てた。


彼女からはきっとまた明日も電話が来るのでしょうね。楽しみで仕方がない。思わずニィと笑ってしまった。




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