肺腑に氷でも詰めたような、ぞっとした心持ちがいたします。
彼女のこの首が、胴が、腕が、足が、明日にはすっかり焼けて灰に骨に真っ白になってしまうかと思うと。白い白い棺をゆっくり撫ぜてみたが、当たり前に堅いだけで、自分の脳裏に焼き付いてはがせない彼女のあたたかさや柔らかさなど微塵も感ぜられなかった。瞳を閉じた彼女と小さな窓越しに対面する。ここに確かにあなたはいるのに、あなたがもういないなんてとても可笑しな気分でございます。手袋を外してそっと彼女の頬に指先を触れた。温度も弾力も失われたそれは、やはり現実感がなく、どうにも曖昧だと思った。今はこうして触れることができるのに、何なら抱きしめることだってできるのに、明日にはこの彼女はいなくなってしまう。抱きしめることのできない、小さな骨になってしまう。あぁ可笑しな話です。想像するだけで、あまりの喪失感に脳の芯がぐらぐら揺さぶられるようだった。嫌だ。ずっとこのまま傍に置いておきたい。傍にいて欲しい。例えもう呼吸することのない亡骸であってもいい、体温も鼓動もない抜け殻であったって構わない、彼女がちっぽけな箱におさまるようなカケラになってしまうよりもどんなに良いか。その唇をいつくしみ髪を愛撫し、そんな小さな幸せすら奪われてしまうなんて耐えられない。気管を細い糸で何重にも締めあげられたように息が苦しくなった。ヒュッと空気が通る音がしたと思ったら、まるで無理矢理何か大きくて硬いものでも飲みこまされているみたいに喉が痛くなった。視界が霞んで彼女の姿すらあいまいになった。眼球が熱せられたように熱くなった。辛いのか寂しいのか悔しいのか愛しいのか、色んな感情が渦巻いて脳がパンクしそうだ。ぼたり、わたくしの目から落ちた涙が彼女の目尻に流れて、まるで彼女の流した涙のよう。紅のひかれた唇にそっと自分のそれを合わせてみるが、幸せなおとぎ話みたいにぱちりと彼女が目を覚ますなんてことなどなかった。すべて夢だったらいいのに。また彼女が笑って、それで、おはようノボリ、どうしたの、うなされてたよ、と髪を撫でてくれて、わたくしはそれに、あなたがいなくなる夢をみました、と返すのだ。そうするときっと彼女は微笑みながらばかだなぁノボリは、と言って抱きしめてくれる。わたくしはそこで彼女の体温と心臓の音に安心して、その体を抱きしめ返すのだ。当たり前の幸せに歓喜するのだ。あぁこの夢がはやく覚めたらいいのに。




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