警報機が鳴りやんで遮断機がゆっくりと上がった。足早に歩き出し、ふと線路を目で辿ってみたら、のびる二本のレールの上を走ってどんどん私から遠ざかっていく電車が見えた。つい足が止まってしまって、私の後ろにいたらしい自転車に乗った人に、おそらく高校生だと思うけど、短く舌打ちされてしまった。慌てて小走りで踏切を出る。学ラン姿のその人は私の脇を一瞬で抜けていった。


交互に視界に入る自分のブーツから視線をはがして、うつむいていた視線を持ち上げる。灰色と白で複雑なグラデーションを織りなす空を背景に、いくつもひょろひょろとビルが突き出している。ちかちかまたたく信号機やカラフルに色を変える電光掲示板や耳に痛い雑踏や空から落ちてくる飛行機の音、クラクションの空気を裂くような音、喧騒、車、人、人、人いつもと同じはずなのにどこか物足りないと思った。携帯でおしゃべりしながら歩く女の人とすれ違う。長いツメにきらきらのデコレーションがよく映えていた。そういえばケータイどこ入れたっけ。ポケットをまさぐって、






「起きなさい、昼休みは終わりましたよ」
「…ハッ!?………………………あ、おはようございますノボリさん」
「しかめっ面で寝ているからどうしたのかと思いました」
「え、しかめっつらしてましたか私」
「眉間にしわがよっていました」
「ひぃぃ、アトが残ってませんように!」
「何か嫌な夢でも?」
「うーん…別段嫌な夢とかじゃなくって……、なんか、変な夢でした。リアルだったけど」


そうですか、まあいいですと言いながらコートに腕を通すノボリさんを見ながら夢のなかみを思いだしてみた。
ポケモンがぜんぜん見当たらなくて、どこへ行っても灰色のコンクリートが地面を覆っている世界。トレーナーなんか1人もいなくって、みんな四角くて薄っぺたい通信端末を持ち歩いている世界。夢の中の私にも家族がいた。友達だっていた。現実の私とはちょっと違うけど、なんだか本当にあの世界がどこかにあってもおかしくないんじゃないかな、と思う。


「はやく支度をなさいまし」
「おっと、すいません」


あぁでも、やっぱり私はあの夢の世界よりもこっちの現実の方がいいなぁ。
への字に口を曲げ不機嫌そうな顔で私の頭に帽子を被せてくれたノボリさんにお礼を言ったら、幾分表情を和らげて優しい顔を向けてくれた。ずいぶん長い長い夢だった気がするけど、さめて良かったなぁ。




あの夢の世界にはノボリさんもクダリさんもいなかったもん、そんなの寂しい。








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