「う…わぁぁぁぁぁぁん!」


どうしよう、私も泣きたい!




改札わきの階段の隅っこに、口を真一文字に結んだ男の子が座っていた。そんなところに子供がいると危ないし邪魔になるからと思って声をかけてみると、私の顔に視線をシフトさせて数秒、くしゃっと顔をゆがめ泣き出してしまった。どうしよう!周りのお客さんたちの視線がとても痛い。とにかくこのままにしておくと目立ってしょうがないので、休憩室で落ち着かせようと思った。のに、抱き上げるために手を差し伸べたらぺしっと振り払われてしまった。あぁもうどうしたらいいの!子供の慰め方なんてわかんないよ!


「あの、僕、どうしたのかな?お母さんは?僕一人で来たの?迷子になっちゃったの?」


なおもぐしゅぐしゅと泣き続ける子供に、途方に暮れてしまう。どうしろっての、抱っこも嫌がるし…!おろおろと子供の前でただただ返してはもらえない質問を投げかけていると、ぽん、と肩に何かが触れてすぐ離れた。


「やぁ、こんにちは。君、どうしたの?迷子かな」


あ、飴食べる?と言いながらすとんと子供の目の前で腰を落とし、クダリさんはにこっと笑った。

「ここにずっといるとさ、ちょっと寒くない?あっちに駅員さんの部屋があるんだけどね、そこでこのお姉さんがココア作ってくれるって。それ飲んでから、一緒にお母さんを探そう?」


ね、とクダリさんはにこにこしながら、未だ階段に座り込んでいる男の子に右手を差し出した。ずずっと鼻をすすってクダリさんの手を取った男の子にもう一度にこっと笑うと、せーの、と二人一緒に立ち上がる。


「よし!じゃあ行こうか」


子供に合わせていつもよりゆっくりめなスピードで歩きだしたクダリさんをちょっと呆然としながら見ていたら、「おーい、置いてっちゃうよー」と声をかけられてはっとした。危ない危ない、びっくりして思考が止まっていた!「あのお姉さんはね、少しおっちょこちょいなんだよー」なんて手を繋ぎながら男の子に吹き込んでいるクダリさんを急いで追いかける。子供にはもう笑顔が戻っていた。


休憩室に戻りぬるめのココアを作ったあと構内アナウンスをかけると、幸い男の子の母親はすぐに慌ててやってきた。どうやらバトルサブウェイを二人で観光に来たはいいものの、途中ではぐれてしまったらしい。人が多いので子供から目を離さないようにとやんわり注意するクダリさんの物腰はとてもやわらかく、正にバトルサブウェイのボスとして完璧である。何度も何度もありがとうございましたと頭を下げてから、親子は出ていった。子供がバイバイお兄ちゃん、ありがとうと手を振ると、クダリさんも落ち着いた声で返し手を振った。ドアが閉まる。どちらともない溜息が洩れた。

「お疲れ様。今日みたいなのはたまにあるから、対処法なんかを考えておくといいかも。子供と話すときは同じ目線でね。それから矢継ぎ早に質問しちゃダメ。それと、大人は慌てないこと」
「……はい。すみませんで、した」


ぐっと喉がつかえた。
迷子の相手すら満足にできない自分に嫌気がさす。まったく不甲斐無い。本当に申し訳ないと思う。私のせいで余計な仕事を増やさせてしまったことにも、使えない部下であることにも。


「でもココアが熱くなかったのは良かったかな。子供ってたいてい猫舌だから」


にこにこ、笑いながらぽんぽんと私の帽子に手のひらを乗せてクダリさんは言う。

「わかんないこと、困ったことがあったら、他の人を頼っていい。僕らみんな、他人じゃないでしょ?」


わけのわからない安心感がどっと押し寄せてきて、じわっと視界がにじむ。ポケットからオレンジ色のちいさな飴を出し、頑張ったね、偉かった。そう言いながらクダリさんはぺりぺりと包みを剥いて私の口にキャンディを放り込んだ。


「頑張ったごほーび!」


にっと笑うクダリさんに、思わずつられて笑みがこぼれる。




いつかこんな風な人に、私もなれたらいいと思った。





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