「君のこと嫌い。大っ嫌い。見てるだけで虫唾が走るよ」
そう呟きながらクダリさんは私の頭を優しい手つきでそうっと撫でる。
「なーにその目、気に入らない」
大きな手のひらが後頭部から首筋を辿り頬に添えられる。彼の手はいつも幸福の象徴みたいにあたたかい。べろりと下唇をなぞるように舐められてからゆっくりこつんと額どうしを合わせられた。目を軽く閉じた彼の端整な顔が文字通り目前にある。クダリさんは一度ゆったり深呼吸して、静かに目を開く。
「…何みてるの、気持ち悪い」
彼のきれいな手が私の両頬を包み込むと、そのまま軽く上を向かされた。
「あぁ、本当に君、とっても無様だよね」
ちゅ、と瞼に口づけられる。
「何で君みたいなのが生きてるのか、僕わかんない」
額、頬、唇、鼻先、耳朶、何度も何度も繰り返しクダリさんは私に小さなキスをしていった。
「君なんかいなくったって全然僕たち困らないよ」
私の腕を取ると、クダリさんは緩やかに指を絡めた。きゅ、と弱く力を込められたせいで、私の指が軽く反る。
「ねぇ、君はいついなくなってくれるの?」
絡めた指先に頬ずりした彼は私の目をじっと見つめてから、ぎゅうと覆いかぶさるように抱きすくめてきた。強い圧迫感はあるが息苦しかったり痛みを感じたりするほどの力ではない。彼は力任せに私を押さえつけたりなんてしないのだ。なのに力の差は歴然で、クダリさんのたったそれだけの動作に私の行動の全てが抑え込まれている。心底愛おしむような手つきにくらくらした。
「さっさと僕の前から消えてよね」
最後に耳元でそう囁くと、クダリさんは明るい陽の差し込む小さな窓の格子から伸びる黒くて重たい鎖を、私が噛んでいる轡の留め具にじゃらりと繋いだ。