あれって彼女のことナンパしてんの?






「ここが中央管制室、知ってるよね。モニターは監視カメラの他にバトル記録目的もあって……」
「ノボリ?あのモニタ、前はなかったです」
「管制室は聞いたよ前来た時にもー、もういいよーわかったよー」
「そうですね、あれは先月導入したものでして……お客様の勝率によりどのトレインどの車両に誰を配置するかを決めるためのですね……」
「新しいシステム入ったから説明してるんだよ!エメット研修に来たんでしょ!」
「Ah……あれですね、相性マシーンというやつ」
「ねーなまえー、お昼どっかいこー?君のお気に入りを紹介して欲しいなー」
「えっいやあの」
「相性マシーンって何ですか、違いますよ」
「エメット!僕の話聞いてるの!」
「Shoot!角はやめてよー」




にっこり。まるで小さいチラーミィでも見てるような顔で微笑みわたしの手を取って、そこでエメットさんはクダリさんにわき腹をバインダーでど突かれた。わたしを挟んだそのすぐ後ろでは、大げさに身をよじってアーウチ、のアピールをするエメットさんなどへ特別反応を見せず「相性はあれでしょう、フィーリングチェック」「あぁ、あのアプリ。美味しいですよね」「わたくしにはちょっと甘すぎますね」「そうですか?」だなんて随分平和な会話を楽しんでいらっしゃる黒いおふたり。デカい人たちに挟まれて圧迫感が半端ないわたしはそろそろ息が苦しい気がしてきた、おかしいなここ水中でもないのにね!前方の白壁後方の黒壁といったところだろうか、自分で考えてて意味が分からないけど多分そんな感じ。改札よりお客さま案内についてった方が楽しそうだよねあははとか思って付添にオーケーを出したものの、これだったらいつもの通りにゲートでお客さんの数でも数えてた方がのんびりしてられたかもしれない。いまさら戻る気もないけど。いつもはわりあい温厚なクダリさんがカリカリしてるのは珍しいので余計に気づまりである。その分ノボリさん達の方から発せられるアルファ波的な何かが心地よくって仕方ない、だってインゴさんなんてノボリさんとの会話にイエスイエス言いながらわたしの口へ数分おきにチョコレート(フィーリングチェックすると謎錬成されるチョコだ、あの甘くておいしいやつ)をぽいぽい突っ込んでくるのだ、そりゃなつき度も急上昇ですって。


「だーからぁ、ハァじゃあもういいよエメットは……ノボリ、インゴの方説明終わった?」
「なまえ、open up, say "aah"」
「あー……、むぐ、んぐ……おいしー、ふへぇぇ幸せ!えへ!」
「終わりましたよ、フィーリングチェックのチョコレートが好きだそうです」
「あ、いいなーボクもなまえにチョコやりたいー」
「ノボリインゴになんの説明してたの!?」
「チョコやるってどういうことですかエメットさん、あーんやりたいって事ですか、それとも餌やりたいみたいなニュアンスですか」
「とにかく説明は出来ましたしもういいでしょう。前にも説明しましたし、面倒くさいですし」
「ボク難しいニュアンスとかー、わかんないなー。Open wide なまえー?」
「あー。…………い、いじわるしないで下さいよエメットさん、チョコ下さいよ」
「ちょ、ちょっとエメット何してんの!なまえにお菓子与えないで!」
「アーハ、ごめんねー、なまえが焦れてるのかわいくてー……Ouch!角はやめてったらー!」
「なまえ、まだハートスイーツ、ありますけど。いらっしゃいまし、こちら。クダリに巻き込まれてしまいますから」
「ハートスイーツ美味しいですよね!うひ!」
「インゴあなたやけに甘い匂いがすると思ったら……どれだけ持ってるんですポケットに」
「持ってないですよ、入るだけしか。Open up なまえ」


こんなにいっぱいのハートスイーツ、誰とフィーリングチェックしたんですか?って聞いてみたら「お客様がたと、です」とだけ上の空に言ってまたぺりぺり包装を剥がし、今度は自分の口の中にそれを放りこんでゴリゴリ噛み砕いていた。この数を見るに相当数のお嬢さんと相性占いをしたんだろう、いいなぁ。わたしなんてノボリさんクダリさんと1、2回やったっきりだぞ。


「待って待ってー、わかったわかったクダリもチョコ食べたいんだよねー?だからバインダーなんだねー?そうでしょ?」
「違うって言ってるだろ。君の中で僕どんだけ欠食なんだよ」
「わたしノボリさんとハートスイーツ2個出したことありますよ、相性87%」
「……よく覚えてますねなまえ、あなたにしては」
「ワタクシ、だいたい相性100%になります。どなたとフィーリングチェックしても」
「アハーごめんってからかったんだってー、ほんとはキミもなまえにフィーディングしたかったんだよねー?」
「なっなに言ってんの馬鹿じゃないの違うし。良い歳してあーんしてはないって思ってるだけだから。ここウノヴァじゃなくイッシュだから。欧米文化通じないから違うから」
「クダリ早口すぎてナニ言ってるかわかんないー」
「え、インゴさんそれ凄くない?誰とでも相性100%なんですか?どんだけ博愛主義なんですか?わたしともやってくれませんか?」
「もちろん、よろしいですよ」


モニター脇の壁にもたれかかると、インゴさんはこなれた手つきでCギアを開く。「どうぞ?」えっ今やるの。興味深げに手元を覗き込んでくるノボリさん(自分だって同じの持ってるくせに何でこんな興味津々なんだろう)の視線を受けつつフィーリングチェックのアプリを立ち上げた。「い、いいですか?オッケー?」「Hey、どうしてそんなに離れてるんですか」「え?何が?」「Come closer」フィーリングチェックですよ?ってぽしょぽしょ言いながらインゴさんがこっちに思いっきり身を乗り出してきたからものすごくびびったけど、あっそういえばこの人あれだ、外人さんだった。パーソナルスペー ス狭いのはデフォルトなのね。目を見開いてちょっと怖くなってるノボリさんを横に「いつでも、どうぞ」だなんて微笑むインゴさんがちょっとかっこよかった。なるほどこれは惚れる。


「……えぇぇインゴさん顔怖い……!」
「なまえ、Hurry up, hurry up!」
「ヒッごめんなさい」


こっちの手元をガン見してぴったり同じタイミングでタッチにタップをそろえてくるインゴさんはもはや狂気だった。目つきはスーパートレインの時のノボリさんと同じくらいにその視線は剣呑であり、間違っても相性占いで遊んでいる男性の表情とは言えなかった。「Hoooo!Hey,you!……あー、どうです、100%ですね、ワタクシ達、相性」ころりころりころりと3つ、謎の錬成を果たしたチョコレートを誇らしげに手の平へ乗せてまたインゴさんは笑ったがもう今度は全然ときめかないやばい。こいつぁジャンキーの目だぜ。でも顔だけはイケメンなのである、ううむウノヴァのお嬢さま方もこれにころりとやられちゃうわけかしら。「健闘を讃えて」パキッ!いい音を立ててハートスイーツのひとつをまっぷたつ、半分こにしてインゴさんはその片方をわたしの口に優しく押し込んだ。もう半分は自分の口にくわえ悪戯っぽく口端を持ち上げる。


あ、分かった。インゴさんってきっと、お国では相当な女泣かせだったと思う。馬鹿なわたしでも分かるくらい。だってインゴさん、相性占いで出たハートを真っ二つって。わたしが彼に想いを寄せる女の子だったら多分泣いてるよ。唇にチョコレートを押し付ける手つきは甘いほど優しかったのに、なんて残念な人なんだ。口の中でとろとろとろけ出すブロークンハートを齧りつつノボリさんをふと見上げたら、なんとも言えないような顔をしながら「チョコついてますよ」って唇を拭ってくれた。「Ingo……」「Ah?」「……Nothing」わかる、わかるよ。お前のへし折って来たフラグは何本だと言いたいんだよねノボリさんわたしも同じ気持ち!やけに静かだなぁと思って振り返ると、エメットさんとクダリさんが双子もかくやというようなそっくりの表情を作って立っていた。「Is he trying to pick her up?」「No.Same old, same old」「てかなまえから離れてよインゴはぁー!!君たち近いんだよ!基本的に!」「なに突然ー!どしたのー!」何かオールドがどうたらって言って切れてた。インゴさんに視線を戻したら、いそいそ残りのハートスイーツをポケットに詰めてるところだった。あ、ずるいわたしにも一個分け前よこしてよ。






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