ラブポーションの効能について








「みて、なまえ」


指でつまんだ小さな小瓶を軽く振ると中からはタプンと微かな音が響いて、琥珀色した液体の表面がきらめくように揺れた。「何ですか?」大して興味もなさそうになまえが口を開く。


「うふふ、これはね、ほれぐすり」
「惚れ薬?」
「そーう、惚れ薬。これを飲んでね、最初に見た人の事、好きになっちゃうの」
「またファンタジックな…」
「すごいでしょ」
「本物ならすごいですけど」
「なまえ」
「何ですか?」
「かお、あかい」


にこっと微笑んで見つめたら更に彼女の頬の朱は鮮やかさを増す。かわいいかわいい、真っ赤だなまえ。「ん、部屋、あっついんです」ぱたぱたと襟をひっぱり胸元に風をおくる彼女を見て心の中でほくそ笑んだ。


「ところでこれ、瓶半分しか入ってない」
「そーですね」
「残りの半分、どこ行ったと思う?」
「最初っから入ってなかったんじゃないですか?」
「違う」
「じゃあしりませんよ」
「きみがさっき飲んだ、紅茶の中!」
「へ……」


大儀そうにまばたきしてまつげを揺らすなまえに、やばいなぁ、可愛いけどここで寝られちゃったら元も子もないんだ。もうちょっと我慢してよね。「なまえー、寝そう?起きて」指先でうなじを撫でたらびくりと目を開く。あ、これ楽しいかも。


「なまえなまえ、ねぇねぇ僕のこと好きになったでしょ?」
「さぁ、わかんな…です」
「うそ。あの薬飲んだ、そしたら僕の好きになるはず」
「しらない」
「もっと飲む?口うつしとか」


溶けそうに潤んでるなまえの目を見つめながら彼女の顎を掬いあげた。抵抗、しないね。小瓶のコルクをきゅぽっとはずして、中の液体を口に含んだ。うわ、ゲロ甘。甘くて辛くてすーすーしてちょっと苦くて、まずい。紅茶に混ぜたの、よく気付かれなかったな。かぷっと彼女の唇にかぶりつき舌でその割れ目をこじ開け、中に液体を送り込む。なまえの鼻にかかったような甘い微かな声にちょっと興奮した。このまま押し倒しちゃったらだめかなぁ。だめだよね。ここ職場だし。こくんと彼女の喉が動いたのを確認して口を離す。薬だか唾液だかわかんないのでなまえの唇がてらてらと光っているのに、またどきどきした。口の中に少しだけ残ってる液体を飲みこんだら、喉がカッと熱くなる。


「なまえ、なまえ、すき」
「ぁ、う…」
「僕のこと好きになって」
「あ、の」
「僕のこと好きって言って」
「ク、クダリさんのことが」
「うん、」


すきです、小さく小さくかすれた声で呟いて、真っ赤な顔で僕のコートの端っこを握りしめた彼女の小さな体を感極まって抱き寄せた。ブラボー!なんて、ノボリみたいだけどああこれ何、なまえが僕のこと好きだって!好きだって!嬉しい!ぎゅうぎゅう力いっぱい抱きしめてたらクダリさん痛いってなまえが僕の胸、とんとんしてきたから、名残惜しかったけど離してあげた。


「好き?」
「す、すきです」
「嬉しい!大好き!」
「んん…」
「愛してる!」
「あ、愛してるとか…!」
「ほんき!すっごく君のこと愛してる!」
「うー」
「君も愛して?」
「……えへ、はい」
「ちゅうしていい?」
「やです」
「ダメ、聞かない。…………ん、はぁ、……っそういう素直じゃないとこも、だいすき」


からんと床に転がり落ちた小瓶を横目で一瞬見た。あんなの、惚れ薬なんかじゃない。ただの溶かした水あめだ。水あめと、まぁちょっと他にも色々入ってるけど。唐辛子の出汁とかハーブエキスとか強めのお酒とか。素直じゃない君から本心をちょっとでも引き出せたら、って思った。効果のない惚れ薬でも、薬のせいだってなまえが思い込んでたら勢いで好きって言ってくれるかもしれないし。本当に僕のことなんか好きでも何でもなかったら冗談で流すだろうし。でもお酒入れたのはやりすぎだったかなあ、とろとろになったなまえの瞳は今にも閉じられてしまいそう。ずるりと僕にしなだれかかってくる体を支え彼女の匂いを肺いっぱいに吸い込む。キモい?愛ゆえです。

起きたらあの薬はにせものでしたって話そうか。怒るかな、恥ずかしがるかな。まさか前言撤回で絶交とか言われないといいけど。そんなんなったら僕泣いちゃうから。アルコールのせいか興奮したのかその両方か、紅く色づいているなまえの瞼にキスして、唇にもキスして、あ、ちょっとまだ甘い味。僕も酔っ払ったようにちょっとだけ世界がふわふわして胸がポカポカして、なんだか夢心地だった。








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