あぁその優しさが裏目に






そわそわそわ。エマージエンシー、緊急事態です。目の前にはこめかみに青筋立ててるノボリさん。今わたしは上司に怒られてる真っ最中で、その上司の手には数枚の写真が握られています。


「何ですか、これは」
「ノ、ノボリさんの写真です」
「そんなことを聞いていると思いますか?」
「………コラージュ写真、です……」


かさりとデスクの上に投げ出された数枚のそれらに写っているのは、どれも挑発的なポーズでこちらの劣情を煽るようなポーズをしているしなやかで筋肉質な体の…ノボリさん。はい、コラージュ写真です。わたしが作りました。一枚作ってみたら意外と完成度高く出来たもんだから楽しくなって調子に乗っちゃったんです。ついつい量産しちゃったんです。でも、


「あ、ああああの、弁解しておきますとコラ写真は他の人に見せたりしてない、です、あくまで個人的に楽しむ為にやりました!」
「えぇえぇそうでしょうねこれをばらまいたとおっしゃったらわたくしあなたを通報するかそれとも二度と外を歩けないようにしてやるところですよ」


ぎらっと刃物のような視線でねめつけられた。う、うぉぉぉガチだ本気だこれ!よかったトウコちゃんに送りつけたりしなくて!このノボリさんならわたしの事を倉庫に閉じ込めるとか迷いなくやっちゃう絶対やっちゃう。恐ろしい。ぐしゃっと力を込めて握りこんだ彼の右手の中には、あーぁ、あの雌豹ポーズノボリさんは一番頑張って加工したやつだったのになぁ。わたしのお気に入りだったセクシーポーズのノボリさんが紙くずと化した。「聞いていますか?」「も、もちろんです!」そわそわ、そわ。


「だいたいあなたは勤務態度もなってないのにこのような物にばかり情熱を注いで」
「はっはい」
「時間にもルーズですし危機管理もなっておりませんしいつもフラフラ浮ついて。駅員としての自覚が無いのでしょう?」
「…すみません…」


そわっ、腿と腿をこすり合わせるようにみじろいだら「ほら落ち着きがない」ってぴしゃりと怒られた。う、うぅぅノボリさんめ、おこごと長いよ。人を叱るときは関係ない話まで持ち出して怒っちゃだめなんだよ!反抗しちゃおうかとも思ったけど、そうすると余計この時間が伸びてしまうのなんか目に見えているから黙っていた。そわそわ、そわそわ。だってだって、




…………トイレ、行きたい!




トイレに行きたいのだ。そりゃもう、さっきから我慢してるのだ。そもそもトイレにいこうとしてるとこでノボリさんが目ざとくわたしのデスクからはみ出た写真を見つけてしまったのが悪かった。せめてトイレいった後に見つけてくれてたらよかったのに!うー、トイレトイレ、トイレに行きたい。ちらりとノボリさんを目線だけで見あげたらギロッと睨まれてまだ言い足りないとばかりにぷんぷん怒り続けている。くっ…ノボリさんの怒りんぼ!かくなるうえは!


「っ……ぐす、ぅ、ふぅ………の、ノボリさ、ごめ…なさい」
「へっ?ぁ、」
「あー!ノボリがなまえ泣かせた!泣かせたー!」
「え、そ、そこまでしたつもりは」
「っひく、違うんですごめんなさい、わ、わたしが悪、っう」
「ノボリ怒るにしてもやりすぎ!泣くまで叱るのよくない!今日は何?写真撮られたくらいでそんな怒……………、ウン、えっと、いいじゃんコラージュくらい別に減るもんじゃないし!」
「なっ何か大事なものが確実に減ります!」
「よしよしなまえ、ノボリしつこいねー?大丈夫だよ、ホントはそんなに怒ってないって!カルシウム不足でイライラしてたんだよ!間が悪かっただけだよ泣かないで!」


良すぎるタイミングで執務室に入って来たクダリさんがノボリさんから庇うように割って入ってくれた。運命の神様に感謝したいよありがとう神様ありがとうクダリさん、クダリさんってほんといい人!「どんな理由があろうと女の子泣かせるまで責めるのよくない!ドSぶって泣く姿鑑賞とかホント悪趣味!」「は!?違、」さきほどまでの殺気はどこへやらしどろもどろになんやかんや言い合ってるふたりをほうっといて、よしあとはこっそり戦線を離脱すれば……


「!なまえ?どこいくの?」
「ぐ、ぐすっ、あの、えっと、…化粧を直しに?」
「あ、あの、なまえ…」
「あぁなまえ!ひとりで泣きに行く気なの?かわいそう、いいよおいでよ、僕シャツの替えあるから胸くらい貸してあげる」
「ちょっとクダリ!」
「ノボリは黙ってなよこのいじめっこ。ほーらよしよし、いいこだねー」


むぎゅう。ト、トイレ行きたいって言ってるのに!クダリさんはその長身でぎゅーっと抱きついてきた、あぁ差し迫った膀胱事情さえなければクダリさんはぁはぁ!とか言って抱きつき返すところだけどあいにくわたしの今の優先順位的にはクダリさんよりトイレさん、いやトイレ様が一番なんですクダリさん離れて!「なまえ、僕の写真だったら使ってもいいよ?」だなんて魅力的すぎるお誘いをぽしょっと呟きながら、クダリさんはわたしのお腹あたりにまわした腕へ軽く力を込めた。ひ、ひぃぃぃぃやめて!




トイレ行かせろ!






×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -