NANPAの心得






『だァいじょぶだってー。君って顔悪くないし。ていうか結構イイ方だと思うしー。頑張れってー』
「無理無理無理ほんとむり」
『何ビビってんのー!それでも男かクダリ!股間にちゃんとついてんのー!』
「つ、ついてるよ!」
『じゃあ頑張んなよー。諦めたらそこで試合終了だってマンガで言ってた』
「うっ……わかった、けど……」
『あんまモタモタしてたらボクが貰いにいっちゃうからねー!』
「ダメ!」




『ノボリ……あなた、あれですね、俗に言う骨なしチキンですね』
「美味しいですよね」
『美味しいですよねじゃないですよ』
「嫌です」
『嫌とか嫌じゃないとか聞いてないです…やるかやらないかを聞いています、ワタクシ』
「やりません」
『やるんです』
「うっ」
『いつまで待ちの姿勢でいるつもりです、なまえの周りにいる男性はアナタだけではないのですよ!ぼうっとしていたらトンビに油揚げ攫われますよ!』
「う、で、できませ……」
『できます』
「できま…」
『You can!』
「できま、」
『You can!Yes you can!』
「No I…」
『Yes you can!Yes you can!Yes you can!Yes you can!』
「わ、わかりましたから!わかりましたから!」
『グズグズしてたらワタクシが連れていきますからね……チョコレートで釣って』
「許しません!」






昨日エメットになまえが仕事しないだとかなまえが僕らの写真こっそり撮るのやめてくれないだとかなまえが蛍光灯換えようとして椅子から落っこちただとかの愚痴を聞いてもらってたら、いつの間にか僕がなまえのこと好きだって話になってて、何故か告白してこいよみたいなことになった。全く意味がわからない。まぁ別に僕だってその、なまえのことが嫌いってわけじゃないし、どっちかっていえば、強いて言うなら、あえて決めるならむしろ、すすす、好きな、方だし、別にそんな全然、付き合うとか嫌じゃないからいいんだけどさ!全然、振られたって傷つかないし余裕だし、ホントだからね!きょろきょろそわそわなまえの姿を探してしまうのは緊張してるからなんかじゃないから。ほんとだから。






昨日インゴになまえが昼寝ばかりして困るだとかなまえがライブキャスターの着ボイスをわたくしたちの声にしているだとかなまえが悪質なお客さまに絡まれ易くて困るだとかの愚痴を聞いて頂いておりましたら、いつの間にやらわたくしがなまえに好意を持っているという話になってしまっていて、おまけに何故か今日告白してきなさいということになってしまいました。全く意味がわかりません。まぁ別にわたくしだってその、なまえの事を嫌っているわけではありませんし、どちらかといえば、強いて言うなら、あえて決めるならむしろ、すすす、好きな、方でございますし、別にそんな全く、付き合うという事が嫌というわけではないので構わないのですけれど!全然、断られたとしても傷つきませんし大丈夫ですし、本当ですとも!きょろきょろそわそわしてしまうのは緊張などではございません。決して。




「…あ、ノボリ」
「クダリ?」
「あのさ、なまえ、」
「なまえを見ませんでしたか?」
「…えー、僕もなまえ探してるんだけど」
「………ほう」
「あ、ノボリ何かなまえに渡すものとかあるの?そうなら僕が渡、」
「いいえ!結構です!クダリこそなまえに何かご用事ですか?代わりに言っておきましょう」
「いっいいよ!ないよ!」
「おやおやぁー?ノボリさんとクダリさん…喧嘩ですか?どうしたんですか?ていうかホームで言い争いやめて下さいよお客さんにみられちゃいますよ」


何か上司ふたりがホームの端っこで全然潜められてないヒソヒソ話をしていたので喧嘩でもしてるんだろうかと思って声をかけた。全くもう、普段はわたしに休憩中以外は駅員としての自覚を持ちなさいだのくどくど言うくせに…バインダーでどつきあってるってどうなの。どう見ても子供の喧嘩じゃないか。とんとんと軽く肩を叩いたら、ノボリさんとクダリさんはびっくう!と盛大に肩を震わせてバッ!とこちらを向いた。り、リアクション大きすぎるよ!こっちがびっくりしてしまった。


「あ、なまえ!こここコンニチハ良イ天気ダネ」
「うぇ?こ、こんにちは?そうですね良い天気ですよね……いや待って下さい今日雨降ってましたよ」
「君の笑顔の様に素晴らしく晴れ渡った空、こんな日は素敵な夜景を楽しみながら一緒に食事でも……えっ!?雨降ってたっけ!?」
「土砂降りですよ」
「えっ、あ、その……う、うわぁん!」
「あ、クダリさん!……なんなんだ…ごはんおごってくれるのかと思ったのに…ていうかホームは走っちゃダメって言ってるくせに。ねぇノボリさん、クダリさん何か変……何やってんですかノボリさん、ひざ汚れますよ」


クダリさんが乙女走りでどこかへ行ってしまった。追いかけようかとも思ったけどめんどくさかったからそのままにして、ノボリさんとお話でもしようかとさっきからわたしの手を握っている彼に目を移したら、なんかよくわかんないけどホームの薄汚れたコンクリートの上に右ひざをついて座っていた。何してんのこの人。


「…………………い、痛かったですか?」
「え?何が?」
「あぅ、あ、あなたが空から落ちてきた時の、話です。羽は無くしてしまったのですか?て、てん、天使さ、」
「え?何て?すいませんもう一回言ってもらえます?」
「だ、だから!あなたが落ちてきた時の…」
「あぁー、この間のあれですか、蛍光灯変えようとして転んだ時の話ですか?大丈夫です!わたし頑丈なんで!」
「ちがいますぅぅぅぅぅ!」


ぶわわと涙を滲ませてノボリさんもクダリさんを追うように走り去ってしまった。乙女走りで。なんだろう、乙女走り流行ってるのかな。ふたりが投げ捨てて行ったバインダーをしかたなく拾い上げて腕に抱える。挟みこまれた書類をぱらっとめくったら何かのセリフのメモみたいなのが走り書きされていた。なんだこれ。






「ちょっとエメット!駄目だったよ!やっぱ駄目だったよあれ!」
『えー?うーん駄目だったかー、まぁ薄々そんな気はしてたけどー』
「なっなんだよ!駄目って分かってることさせようとしないでよ馬鹿!」
『アハハ!ていうかクダリほんとに言ったのー?うけるー』
「雨降ってたんだよ!もう、天気確認しておけばよかった!」
『え?そっちなの?サムいって言われたんじゃないの?まじでー?』




「インゴ!やっぱり出来ませんでしたよ!」
『Hum…まぁそうですよねぇ。あのような歯の浮くセリフを言われて落ちる女性がいたら会ってみたいものです』
「うっ…なまえが先週蛍光灯なんか変えていなければ…!」
『ハイ?何の話ですか?』
「いえ、椅子から落ちていなければ……」
『Hello?ノボリ?』




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