ボーダーラインは30点です







「嫌です」


「……駄目です」


「いやむりです、だってあれですもん、わたし今日の放課後はトウコちゃんとお茶する予定が入ってるんですもん」


「そんなの明日でいいわよ」


「えっそんな!と、トウコちゃんの薄情者!」


「赤点取った自分を恨むのね」


「はい、えーとではなまえさんはあとで化学講義室来て下さいね」


「えぇー…あっちの校舎に行くのがまずめんどくさいです、教室じゃダメなんですかぁー」


「行きなさいよ」


「来て下さいね」


「教室…」


「来て下さい」


「行きなさいなまえ」


「…わっかりましたー」


「頑張ってねなまえ!」


「トウコちゃんとドーナツ食べたかった」


「明日でいいじゃない。補習ちゃんと出なさいよ。何なら明日も明後日も放課後やってもらったらいいわ」


「何でそんなにわたしを補習に行かせたいのトウコちゃん!?」






「やだよぉぉぉぉ……せっかくの放課後が化学とか最悪じゃん…やだよぉぉぉぉぉ……逃げたい…ドア開けたくない……逃げたい…………………………、うんよし。逃げよう。お腹痛いことにして逃」


「ッそうはいきませんよ、さあ入って下さいましなまえさん」


「ひぃ!……アラやっだーノボリせんせーったら足音消すの上手ですね!」


「お褒めに預かり光栄です、どうぞ、これが課題のプリントです。シャガ先生のお手製です。これを提出してから下校して下さい」


「……………こんなにびっしり出来ません!わたしは化学はからっきしです!塩化ナトリウムが塩だってことしか覚えてません!むりです!」


「わからないところがあったらわたくしが教えますから、頑張って下さい」


「そんなこと言ったらあれですよ、最初っから最後まで全部解説してもらうことになりますよ!?」


「……多少自力で解いて下さいね?」


「いやむりです、だって一問目からわかんないもん」


「なまえさん、まだ問題も読んでいないのに諦めてはいけません。はい席について下さいまし」


「うー………え、せんせー隣に座るんですか」


「え、い、いけませんか?こっちの方が、その……教えやすいと思って……あ、集中できないならもっと離れます、けれど」


「あっいえいえ大丈夫です大丈夫です!」


「…そうですか。えー、では、一問目から、どうぞ」


「んっとー、原子核の一番内側のやつの名前ー、えっこれ一年のとき習ったやつじゃん。シャガせんせーわたしのこと何だと思ってるの」


「…………………」


「A殻、と」


「違います…」


「え?」


「この間も同じことを説明したと思いますが、一番内側はA殻でなく、」


「あー……あ、思い出しました。L殻だ!」


「…違います。惜しいですが」


「M殻でしたっけ」


「遠ざかりましたね」


「K殻?」


「はい」


「おっしゃ当たったー!K殻、と。ふむふむ、そんで次がー………確かこれで、それから次は……こんな形でー、………次は、…あ、これは分かるわ。塩化ナトリウムでしょ、オッケー。選択問題は多分abefdcみたいな感じでしょ、うん、問題読んでないけど」


「なまえさん、ちゃんと問題文読んでいらっしゃいますか?」


「よ、読んでますよ読んでます!どどどこか間違ってましたか?」


「いえ…合っておりますが」


「えっ合ってるんですかわたしすごい……いや何でもないです何も言ってないです!はい大丈夫です!えーっとぉー次はぁー……ナンダコレハ」


「実験でやりましたよ、覚えてますか?」


「全く覚えてません」


「………思いだして下さいまし。あ、なまえさん、資料集使いますか?」


「資料集みたところで分からないからいいです」


「そ、そうですか………」


「化学式見たところで名前なんかわかんないよー……せめて選択式なら…!」


「なまえさん、以前あなたが実験の時に延々ガラス棒でつついて遊んでいたやつですよ」


「あぁあれ……………せんせー、何か怒ってます?」


「え?いいえ?」


「そ、そうですか!ですよね!あれ何かデジャブが」


「白くてぷよぷよしてたやつですよ」


「そこまでは思いだせたんですけど、えーとえーとアレの名前は……確か………酢酸カーミン!」


「全然違います。それは核を染色する液ですよ、生物の実験で使うやつ」


「うーんうーんうーん、…………わかんない…せんせーヒント!ヒント下さい!」


「サから始まります」


「さー?」


「さ」


「さ……さ、酢酸オルセイン」


「それも核染色液ですね」


「さー……」


「サリチル酸、」


「さりちるさん」


「サリチル酸、めー?次の文字はなんでしたっけ?なまえさん?」


「サリチル酸、めー………メタン」


「め、ち………?」


「めーちー………れん?」


「惜しいです」


「めーちー………る?」


「はい!そうです!」


「ヒィッ!?びびびびっくりした…!」


「サリチル酸メチルでございます。もう忘れないですよね?」


「あ、はい善処します」


「そうして下さい」


「サリチル酸、メ、チ、ル、…と。終わった!」


「よくできました」


「へっへへへへへー!」


「あ、まだですよなまえさん、大事なものをお忘れです」


「え?何ですか?命?」


「……それを忘れたら一大事ですね?そうではありません、名前を記入して下さい」


「おっといっけねー、忘れてました!…………ん、よし。これでかんぺきですね!はい、ノボリせんせー!」


「お疲れさまでした」


「せんせーありがとうございました」


「なまえさん、もう赤点取らないように気をつけて下さいまし。次やったら倍の量の課題を出すってシャガ先生おっしゃってましたよ」


「おぇぇぇぇやだやだ一枚でいっぱいいっぱいです!」


「だから、ちゃんと勉強なさってくださいまし」


「うぅぅそれもヤダ……」


「ね」


「うー………いいじゃないですかぁ補習で成績つくならこれでも…ノボリせんせーとプリント解く方が絶対わたし覚えられるんですけど。シャガせんせー怖いんだもん」


「そうできたら良いですけど、ね、わたくし教育実習生ですからね」


「あ、そっか」


「そうですよ、だからちゃんとお勉強して下さいましね」


「いやです」


「そこは嘘でもはいと言って欲しかったですね………」





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