間違ってますよ








「あ、ノボリさん!この報告書なんですけど、」
「僕クダリ!ノボリじゃない!もう!なまえ、何度も言ってるのになんで間違えるの!」
「ひぃぃごめんなさいノボリさん!」
「違う!僕クダリ!」
「きゃあぁ」


僕クダリ、サブウェイマスターしてる。バトルが好き、ギアステーションのみんなが好き、ノボリが好き、でもノボリと間違われるのはあんまり、好きじゃない。よく似てるね、本当にそっくりだねって同じに扱われるの嫌い。同じ服着て同じ表情してると、母親すら僕らを取り違えることがあった。そういうの嫌い。僕は僕だもん、ノボリじゃないんだ。ちゃんと僕を僕って認識して欲しい。おまけに一般のお客さんならともかく、なまえは駅員、僕らの部下なのにさ!


「あのあの、ノボ……じゃなかった、間違えた、クダリさん!」
「ノボリで合っています、わたくしがノボリでございます。どうしましたなまえ」
「あのですね、白ボスのノボリさんがですね、」
「だからですね、わたくしがノボリでございます。白い方はクダリです」
「うぁ、ごごごめんなさい!」


また間違えてる、こんなに違うのになんで間違うのかな。間違うって言うか、名乗られた直後にまた取り違えるってそれ既に病気のレベルだと思うんだけど。なまえにちゃんとクダリさんって呼んでほしいんだけどなぁ。


「なまえ、何で自分そんなにボスら間違えるんや」
「お、おおお覚えてますよ……白い方がノボリさんで黒い方がクダリさんです」
「ちゃう」
「わぁぁん!」


なんで間違えるのなまえ有り得ない!


「だってだってほら、白いボスは口角上がってて黒いボスは口角下がってますよ?だからむしろ白いボスがノボリさんで黒いボスがクダリさんのはずです!」
「むしろって何や。はずとか勝手に決めたらアカン。『黒い方のボスがノボリさん、白い方のボスがクダリさん』はい復唱」
「黒い方のボスがノボリさん、白い方のボスがクダリさん」
「よーしそうやなーちゃんと言えたなー、じゃあなまえ、あのボスはどっちや?」
「ノボリさんです」
「違うもん!僕クダリ!」
「ひぃぃん」
「あかん……」


初見でならノボリと僕を間違う人はいっぱいいる。双子だからぱっと見じゃあ見分けつかない。それは仕方ない。でも普通の人なら一回間違ったらもうその後はちゃんと覚えてくれるんだ。二回目以降は間違えないんだ。そう、普通は。「ノボリさん、あの」「……僕クダリ……」「ぅえ、すっすみません」だから多分なまえは普通じゃないんだこれきっと。


「というわけでノボリ、今日は僕の服着て過ごして」
「何がというわけなのです」
「僕一回くらいなまえにちゃんとクダリさんって呼ばれたい!ノボリのカッコしてればなまえ僕のことちゃんとクダリさんって呼んでくれる!」
「あなたそれでいいんですか」
「背に腹は代えられない」
「そこまでの問題ですかねぇ……名前くらい…あぁ、いっそなまえがわたくしたちを間違えなくなるまで名札でもつけて仕事しましょうか」
「嫌だそんなのカッコ悪い」


そうだよそう、僕が黒いカッコしてノボリが白いカッコすればいい、そしたらなまえ間違えない。いや間違えないって言うか根本的には完全に間違ってるんだけど、とりあえずちゃんと僕に向かってクダリさんって言ってくれるはずなんだ。万年筆をくるくる回しながらなまえに渡された書類をチェックしてるノボリを座ってるキャスター付きイスごときゅるきゅると引きずって更衣室へ向かう。ノボリの黒いコート、ノボリのズボン、ノボリの帽子、ばっちり。きゅっと口もとを引き結んで、よし、なまえを探しに行こう。制帽の鍔をきゅっと下ろしてノボリらしく見えるようにこつこつしっかり歩いた。「ノボリサン、オ疲レサマデス」「お疲れ様です」誰も僕だって気付かない。クラウドとなまえが見えた。


「なまえええかー、ここにスイッチあるやろ、こっちの緑の入れてから黒いの押しながらアナウンスするんやで、わかったな」
「はい!」
「あ、ねぇクラウド、カズマサ知らない?」
「カズマサ?」
「知らんで。おらんのか」
「うん、いないのさ。お昼食べに行っちゃったのかなぁ…それにしちゃ今日ずっと見てないけど」
「今日どころかわし最近カズマサ見取らんぞ…あ?あ、もう昼か」
「そうだよ」
「なまえ、昼食ってきい。残りは午後な」
「あ、はーい」
「ラムセス、カズマサ探すで」
「えっいいよ、急ぎじゃないしさ」
「ええから、ほれ」
「えぇぇ……」
「なまえ」


クラウドたちが歩き出すと同時になまえへ声をかける。「あ……ノボリさん」え…おぉ!なまえが覚えよったで!なまえ偉い!振り返ったクラウドとラムセスが、僕らの姿を確認してちょっと驚いたように喋っている。明日は雨が降るな!きっと雪さ!「どうして黒いの着てるんですか?」やーぁっと覚えよったなーこれでクラウドも胃痛治るねーアホか胃痛なんぞもっとらん、軽い言い合いしながら歩いて離れてくふたりを尻目になまえが不思議そうに僕へ聞く。


「白いの、汚しちゃったんですか?ノボリさん」
「ぼく……僕、クダリだもん!!!!」
「えぁ!?え、ご、ごめんなさいぃぃ!」

ぷんぷんしながら軽くなまえの頭にチョップを落とすと、なまえはぎゃーって言って頭押さえて縮みこんだ。何さ何さ、何で、僕のこと覚えてんじゃん、間違ってるけど!何だよ何だよもう、僕とノボリのこと取り違えてたんじゃなく名前を間違えて覚えてたんだこの子もう、ほんとありえない馬鹿!「何で僕だってわかった?」「え?だって顔違いますもん」「………そう?」母親にもたまに間違えて呼ばれた僕らを、迷いなく違う顔って言い切った。んんん、ちょっと嬉しい。


「似てるけどやっぱ違いますよ。ボスとクダリさんとは」
「……ちがう…ちがうちがうちがうちーがーうー!僕がクダリ!」
「アギャーごめんなさい!!」


ノボリと僕の区別ついてるなら名前覚えるのなんて簡単じゃん、なんでそれできないのなまえの馬鹿!




「ノボリ、僕とノボリの名前交換しない?」
「嫌です」






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