うちのこにさわらないでください






今日は早く上がれる日だったのでそろそろ帰り支度でもしようかと思ってたとこへしっとりとした質の良さそうなスーツを少しだけラフに着崩した金パ外人がやってきた。


「Excuse me, which train should I take to HiunCity?」
「えっえ、えいご…!?ぱ、ぱーどん?ヒウン?」
「Hey hey なまえ? Have you forgot me?Ah?」
「え?……ああー!エメットさん!おひさしぶ……うぐ」
「Go to track number five. そんで戻ってくんな」
「あれークダリ、はやいね!ボクら今日はおしのびで来たのに…もうばれちゃった」
「ぎぶ、ギブギブギブ!!……っは、ちょっとクダリさん!エメットさんとはいえ仮にもお客さんの前で部下にチョークスリーパーってどうなんですか!」
「お客さんの前とか以前にクダリ、女の子に乱暴よくないよー」
「うるさいちゃんと手加減した」
「そんなことだからクダリは女の子の扱いが駄目なんだよー」
「う、うるさいよ!」


にこにこヘラヘラと笑顔を振りまくエメットさんへクダリさんが噛みつかんばかりに詰め寄っている。クダリさんに襟元を掴まれたまま「なまえ〜」だなんて手をひらひらさせてるエメットさん。


「イッシュ来るなんて聞いてない、何しに来たの?ていうか来てもいいけどうちの駅員にちょっかい出さないでくれる?」
「チョッカイ?出してないよーどの電車乗ったらいいか聞いてただけだよー」
「インゴはどうしたの?ひとりで来たわけ?」
「インゴ?インゴなら多分今ごろシッポウシティいると思うよ、ミュージアム行くの好きなんだよねインゴさー。明日はヒウンのギャラリー行くって言ってた。」
「え?インゴさんも一緒に来たんですか?ミュージカル?何?」
「ミュージアムだよー!ハクブツカン。ミュージカルじゃないよ。あ、ねぇなまえ、ここもミュージカルあるでしょ?今日お仕事何時に終わる?ちょっと付き合って欲しいなー」
「えぁっ、あ、ハイ、いいですよ?」
「うちの駅員に手出さないでって言ってるでしょ!ナンパならよそでして!」


ナンパじゃないよー、ちょっと遊ぼって言ってるだけじゃん。クダリ過保護ー。ニタァって唇の端を吊りあげて厭らしく笑いながらエメットさんが言う。どうでもいいんだけど私をはさんで会話されるとですね、わたしの頭の上を喧嘩腰なふたりの言葉が通過していくわけでですね、とっても居心地が悪いです。ついでに言うなら、ふたりとも背が高いので、顔を見て話そうとすると首が疲れます。ふたりとももっと縮め。


「ちょっと遊んでー、ご飯一緒に食べてー、そんでまたちょっとだけ遊ぶ、それだけ!」
「エメットが言うと不健全な内容にしか聞こえないんだよ!」
「ハ?やだなー何言ってんのー」


クダリさんの血管がそろそろぶつんといきそうで怖い。あ、3時過ぎた。2時58分の電車に乗って帰ろうと思ってたのに……。


「ていうかさー、クダリなんでそんなに怖い態度なのー?前はもっとフレンドリーだったよね?」
「何言ってんの、僕は元々こうだから」
「え、そんなこと無いですよ、クダリさん普段はもっと優しいですよ?」
「あ、やっぱそうなの?あのねーなまえ、クダリねー、前はボクにももうちょっと優しかったんだよー。こんなふうになったの、ボクがなまえと会っ」
「Shut up!」
「Ouch!……なにするのー!」
「ちょ、クダリさん!わわわ、エメットさん大丈夫ですか、痛いですか!?」
「いたいよーなまえ撫でてー癒してー」
「もう、クダリさん流石にガチげんこつはだめでしょ……え、な、何でクダリさんが泣きそうになってるんですかぁぁ!?」
「うるさい!知らない!なまえのバカー!」


だだっとコートの裾を翻し全力ダッシュでクダリさんは走り去ってしまった。なんかあれみたい、少女マンガ。ホームは走るなって私には口酸っぱく言うクセに。と思ってたら、駅構内で走るんじゃありませんよ!ってノボリさんの怒声と、わぁぁノボリィィィって叫び声が聞こえた。やっぱ怒られたんだな。


「ねぇなまえ、今日お仕事いつ終わるのー?イッシュ案内してよー。お仕事終わるまでボクどっかのカフェで時間つぶしてるからさー」
「あ、ハイあのですね、実は私の今日の勤務はさっき終わったとこなので、もうこのあと自由時間なんです!」
「ホント!じゃあさー、ミュージカルいこーよミュージカル、夕ご飯もおごってあげる!」
「うひゃーほんとですか!やったー!エメットさんありがとうござ」
「エメット!?」
「…あー?ノボリー?」


小走りで寄ってきたのはノボリさんだった。「エメット、クダリに聞いて驚きましたよ、いつイッシュに来ていたんですか?」「ん、昨日の夜かな?」そうですか、抜き打ち視察でも…?ちょっとだけ眉を寄せてノボリさんが言う。エメットさんはけらけらと笑って「違うよー!ただの休暇!」とだけ答えた。


「1週間休み取ったからさー、せっかくだからなまえに会いにこよっかなー?って思って」
「え?私?」
「……なまえに?」
「そだよー、だってさ、前会った時はアドレスも交換しなかったし?なまえあとで住所教えてよ。手紙書くからさーあとPCメアドとでんわばんごーもー」
「ほ?あ、わかりまし」
「エメット、手紙だったらギアステーション宛てにして頂ければわたくしがなまえに渡しておきますから。なまえ、教えなくていいです」
「いやいやいや、それはおかしいでしょうノボリさん」
「そーだよー直接なまえに送りたいよー」
「いいから言うこと聞きなさい」


ノボリもクダリも過保護すぎ!ママじゃないんだから!ってぷうっとほっぺたを膨らませてエメットさんがぶつぶつ言っている。いや過保護って言うかこれはもはや監視でしょう。部下の。ぎろりとノボリさんがエメットさんを帽子の鍔の下から睨みつける。


「ちぇ、まぁいーけど…でもメアドくらいは聞いてもいいでしょ?」
「そのくらいならまぁ、許しましょう」
「なんでノボリさんが許可出すんですかぁ…」


PCのアドレス、ボクに送って!赤外線できる?ってエメットさんが腕をまくった瞬間、ぴろぴろと高い着信音が聞こえてきた。「あ、インゴだ」インゴさんからの電話らしい。「もしもしー?うん…うん、言ったよー。来るって………なまえ?ここにいるよ?あ、ウンわかったー。……なまえ、インゴもなまえと話したいって!」


ぺいっと投げてよこされたライブキャスターをわたわたとキャッチして画面を覗き込んだ。


『なまえ、元気そうでなによりでございます。お久しぶりですね?』
「えへへ、インゴさんもお元気そうで!お久しぶりですー!」
『なまえ、エメットとこのあとどこかへ行くのでしょう?ワタクシもアナタと久しぶりにゆっくり話がしたいです…いかがですか、ワタクシ共が取っているホテルなのですが、なかなか良いレストランが入っているようなので、三人で夕食でも』
「是非行かせていただきます!!」
『それはよかったです。ではエメットと一緒に来てくださいましね』
「はい!ありがとうございますー!……エメットさんこれ、ライブキャスターありがとうございま……ノボリさん何で泣いてるんですか…???」


男二人とホテルだなんてそんな破廉恥な子に育てた覚えはございませんんんん!って言いながら涙をきらりと光らせてノボリさんが駆けて行った。なんなんだ。ぽんと肩に置かれた手を辿って隣を見上げたら、エメットさんがヘラヘラと笑っていた。「キミって愛されてるねー」いやそれはどうだろう。






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