生意気なメリーは正午に夜這いする








リビングで日向ぼっこしていたらいつの間にか眠っていたらしい。太陽の光でぬくぬく温まった毛布の上で、ライブキャスターがちかちか光っている。開いてみたら、着信履歴がクダリさんの名前で埋まっていた。……あれ?わたし毛布なんかかけて寝てたっけ?留守番電話のメッセージが入っているので確認してみる。


『やぁ、僕クダリ。今ギアステーションの階段にいるの。午後は点検だからもう帰っていいって。今からそっち行くね』
『やぁ、僕クダリ。今ケーキ屋さんのお店の前にいるの。君、ショートケーキ好きだっけ?聞こうと思ったけど電話出てくれないしショートケーキでいいよね。かわいいし美味しいし。買ってくね』
『やぁ、僕クダリ。今君の家の近くのお花屋さんの前過ぎたとこにいるの。バラでも買ってこうかと思ったけどそういえばなまえにこないだ花買ってったら嬉しいけどお菓子の方がいいって言われたの思い出したから、隣のお店でバラの砂糖漬け買ってみた。これなら食べられるしいいよね』
『やぁ、僕クダリ。今君のマンションのエントランスホールにいるの。君の家何階だっけ?』
『やぁ、僕クダリ。今君のマンションのエレベータ出たとこ。ポスト見たら何階かわかるってことにさっき気付いたよ』
『やぁ、僕クダリ。今君の家のドアの前にいる。こないだ貰ったこの合鍵、使うの初めてでちょっとドキドキする。ていうかひょっとして家にいないの?勝手に待ってていい?もう鍵あけちゃったけど』
『やぁ、僕クダリ。今君の後ろにいるの。なまえ、寝てたんだね』


メッセージが終わったことを告げる電子音と同時に、ガバッ!って後ろから長い腕に巻きつかれた。ひぃ!


「おはようなまえ」
「お、おはようございます…」
「勝手に入ったよ」
「えぇ、見ればわかります」
「お邪魔します」
「はい」


会いたかったよなまえ寂しかったよなまえととても良い声で囁きながらわたしの肩口に額を押し当てぐりぐりごりごりしてくるクダリさんとは、私の記憶が正しければ三日ほど前にもあったはずだけれど。だって合鍵はその時渡したんだもの。勤務時間が合わなくってその後は珍しく会えない日が続いたけど。


「僕1日だってなまえと会えない日があるの辛い」
「えぇぇ…」
「会えなかった分のなまえを補給しにきた」


ね、って優しく笑いながらクダリさんが私を抱きすくめたまま、また床にころりと転がった。「床に寝てたら背中痛くなっちゃいますよ」「だってここ、あったかい。なまえと日向ぼっこしたいの」ぎゅうって腕に力こめてくるもんだからちょっとだけ苦しくて、もぞもぞと体をひねってその拘束から脱出。「………なまえ…?」そんな捨てられた子犬みたいな顔しないで!かわいいんだからもう!毛布をわたしとクダリさんの体にかけ直して、もう一度彼の腕の中にもぞもぞ潜りこむ。さっきは背中から抱きつかれるような体勢だったけど、今度は向かい合わせで。クダリさんが心底嬉しそうに笑顔をこぼしてぎゅうぎゅうと抱きついてくるから、恥ずかしいやら幸せやら、キスをねだるようにすり寄せてきた鼻先に小さく口づけてから、唇にもちゅってキスを落っことした。あぁ恥ずかしい!クダリさんは少しびっくりしたようにこちらを見ている。


「あ、え、なまえ…」
「…んですか…」
「なまえからキスしてくれた…!くちびる、と鼻、ちゅって」
「ぎゃー言わないで下さいよそんなことぉぉ!」
「っ嬉しい!幸せ!愛してる!」
「わぁぁお口チャック!チャック!」


なまえなまえ、って何度も何度もリップノイズを響かせながら顔中へ雨みたいに降ってくるクダリさんからのキスを、ぎゅーって目をつぶったまま、多分真っ赤になってる顔で受け入れた。「恥ずかしがって目、つぶっちゃうなまえもかわいい」ちゅう、って瞼にちょっと長く唇を押し当ててから、クダリさんはその上半身を起こす。………あら?何かこれ私が押し倒されてるみたいな体勢になってませんか?ふと真剣な表情になった彼から視線が剥がせない。


「でもね、たまにはね、さっきみたいになまえからキスして欲しい………っなまえからもいっぱいキスしてハグして欲しい、僕ばっかりが君のこと好きなんじゃないって安心、したい」熱に潤んだ目で物欲しそうに見つめてくるクダリさんなんか、わたしからの愛を疑っちゃうクダリさんなんか、ふん、生意気だ!首元から垂れてる青色のネクタイをぐいとひっぱって、バランス崩してよろっと倒れ込んできたクダリさんの唇に思いっきりキスしてみた。ぶちゅう。サービスで腕も首にまわしてやるんだから。私の本気見るがいいわ!チロリと彼の唇を舌先で舐めた所で、真っ赤になったクダリさんが私を引きはがす。「わっわぁぁ、なまえっなまえちょ、ちょっと待って!」赤くなったほっぺたを手のひらで抑えてクダリさんは慌てている。毛布がその肩からずりっと落っこちた。恋する乙女かクダリさん。


「も、もう、なまえいきなり、ちゅー、するなんてびっくりするじゃん!」
「だってクダリさんがキスして欲しいって言ったんだもん」
「そうだけど!」
「だけど何ですかー?」
「っ、なまえの癖に生意気!」


がぶって噛みつくみたいに、いつもの余裕なんか全然ないクダリさんがキスしてくる、生意気。その唇をぺろりと舐める私もクダリさんからしたらきっと生意気。調子に乗って舌絡めてくるクダリさんはもっと生意気。くぐもった声を漏らして挑発してみるわたしは生意気かなぁ。顔を離してとろんと濡れた目で見つめるクダリさんの唇が唾液でてらてら光ってるのが扇情的でいやらしい。「ひなたぼっこじゃなかったでしたっけ?」「なまえが生意気に僕を煽るからいけない」ごそっとシャツの裾から肌を撫でるように手を侵入させてくるクダリさんはショートケーキなんて可愛らしいものを好むおとこのこの顔じゃなかった。生意気にも大人の男性の顔だった。









×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -