顔面蒼白のノボリさんが口もとを覆って泣き出しそうな声でナマエの名前を呼んだ。それですべて悟った。ノボリさんとこの子は親しかったのだ。今のこれはきっと私のことではなく、この子の名前を呼んだのだろう。


「ナマエ、おかえり」


ぎゅうと私と椅子の間に腕を滑らせてクダリさんが抱きしめてきたが、そんな事より壁にもたれて今にも座り込んでしまいそうなノボリさんが気にかかった。「ノボリさん……」はじかれたように顔を上げた彼を見て、ぎりぎりとあるはずもない心臓が痛む。あぁ、私は戻されるべきではなかったのだ。「……なんですか、ナマエ」無理に取り繕ったような笑顔が一層辛い。


「ナマエ、僕君が帰ってきてくれて本当に嬉しい」
「クダリさん、私は戻しちゃいけなかったんですよ」
「どうして?元々ここにいたの君、戻しただけ」
「だめなんですよ。元に戻したらいけないんですよ。私はもう廃棄されたんですから。新しい子に私を焼いちゃいけないんです」
「焼くとか言わないで。だって君ほとんど人、そんな言い方やだ。意思ある、記憶ある、これ人間でしょ」
「私は破損データだったんです、戻せないんです、データは人じゃないんです」
「でも僕戻せた!僕頑張った!」
「違、そうじゃなくて、違います言いたい事そうじゃなくて、」


私を人間と認めるなら、私に意思があるというなら、この子にだって意思はあったのだ。私がクダリさんのコンピュータの中で生活していた時間を、この子は私としてでなくひとつの個体として過ごしていたのだ。私とは違う考えで、私とは違う価値観で、私とは違う人を好きになって、生きていたはずなのだ。どうしてそれに気付かなかったの?






この子にだって意思はあったのに_






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