私の前任であった私、は、話を聞けば事故で大破してしまったそうで、数か月前にここへ設置された時にデータは無いのかと問うてみたのだが、どうやら破棄したパーツとともにそれらは処分されてしまったらしい。らしい、というのは伝聞ということでなく、壊れた私からデータを吸いだそうとしたのだが何故かチップや記憶媒体が見つからなかったということだそうだ。とはいえ業務に支障が出るような情報はもとより入っていないというし、基本的データならば設置時に組み込んでもらったので問題なくここで私は働けている。上司であるノボリさんは私にとても良くして下さるし、他の駅員さんたちもみな親切だ。良い所に連れてきてもらえて私はとてもラッキーだった。ひとつだけ懸案事項があるとすれば、もう一人の上司であるクダリさんのことだろうか。察するにアンドロイドというものがお嫌いなのだろう、私の存在などまるで無いかのようにふるまうし、業務連絡以外で話しかけれればあからさまに嫌悪感を覗かせるのだ。そんな彼が怖いので、私はもっぱらノボリさんへ付いている。配置された当初はもう少し砕けた話し方だったが、ノボリさんと多く会話するうち彼の話し方が多少移ったらしい。好きな人のクセを無意識に取り込めたことで、ほんのちょっぴり人間になれたような気がして嬉しかった。クダリさんの口調を取りこんでいたら、いったいどんな私になっていたのだろう。想像もできない。私を毛嫌いしている彼と会話することなどほぼ不可能に等しいだろうし、この考えはすぐに思考領域の奥深くへ沈みこませた。






データの引き継ぎは行われなかったので_






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