バラバラに破損した君を必死でかき集めて修理してもらおうと頼み込んだのだけれど、もうあちこち傷んで必要なしと判断されてしまった彼女には無情にも廃棄の決定が下された。僕らのギアステーションには新しい同型の”ナマエ”がやって来たけれど、当然基本情報以外のデータもなく行動も話し方も違う彼女には、なじめない。君の記憶チップをくすねて、僕はナマエを作りなおそうと思った。思ったのだ。






≪クダリさーん、おはようございます!_≫
「……うん、おはよう」
≪今日もお仕事ですね!私お仕事嫌いでしたけどー、今はちょっとだけ懐かしいなぁ_≫
「うん……」


ぱちぱちと流れるように打ちだされて行く単語の羅列に、僕はヘッドセットのマイクへ息を吹き込んで応える。白と黒の無機質な文字群の向こうからナマエの声がはっきり響いてくるような気がした。記憶の中の君は僕の脳の中で未だ鮮明に音を持っている。


≪クダリさん、もうこんな時間!お仕事はやく行かなきゃ!≫
「やだ、行きたくない」
≪ちょっとぉー、ボスが何言ってんですかもう!だめだめ、ちゃんとお仕事して下さいよ!私だっているんでしょう?新しい子!≫
「知らない、あれナマエじゃない」
≪私の後任なんだから私でいいんですよぉ、私のこと困らせないで下さいよ、ちゃんと上司やって下さいな!≫
「やだ、あれ嫌い」
≪えぇー!わっ私嫌いですか……?≫
「違う、あれはナマエじゃない」
≪だって同じ顔でしょう?≫
「違うもん。………行ってきます」
≪私と同じなんだからナマエでいいんですよ!多少性格とか違うかもしれませんけどーぉ。いってらっしゃい!≫
「全然違うよ」


コンピュータは点けっぱなしにして家を出た。マイクから拾う微かな音を聞きながら、彼女は一日を過ごすのだと言う。以前退屈でないのかと聞いたら、飽きたら勝手にスリープしますから大丈夫ですと文字が打ち出された。答えになってない。つまり彼女は退屈なのだ。できれば一日じゅうそばにいてやりたいのだが、ナマエは僕にそれを許さない。でももう少しの辛抱だからね。もう少し待っててね。今日仕事から帰ったら最後の基盤を結合させて、明日にも彼女を取り戻そうと思う。考えるだに心が躍った。






いなくなってしまったので、僕は君を作りなおしてみた_






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