:) はくとちゃんより!
遠くから祭囃子の音が聞こえ、すれ違う人々は浴衣を着ていて手にはヨーヨーや綿飴、金魚といった様々な物を持っている。その合間を縫うようにじめっとした生暖かい風が通っていく。
「あ、ナマエ!」
「こっちだよ〜」
待ち合わせ場所に行けばもうすでに着いていたらしいトウコとベルがいた。
浴衣を纏う2人はいつもよりも一層可愛くてクラクラしそうになったけど、なんとか平常心を保って駆け寄る。
「お待たせ、遅くなってごめんね」
「大丈夫。私たちもまだ来たばっかりだったから」
「そうだよぅ、気にしないで〜」
気にしていないという風に手を振って笑うトウコとにこにこと笑うベルは天使だと思いました、まる。
「じゃあ行こうか」
トウコが私とベルの手を取って歩き始めたのに倣って私達も歩き始める。
カラン、コロン
草履が涼しげな音を鳴らしているのを聞いて、夏だなとしみじみ思った。
「あっこれ可愛い。ナマエもそう思わない?」
「本当だ、可愛い!こっちのも可愛いね」
「これもかわいいよ〜」
「じゃあお揃いで買おうよ!」
トウコが光るアクセサリーやらおもちゃが並べられている露店の前に立ち止まり、手に取った。店主が言うにはカントーのポケモンたちをモチーフに作られているものらしく、トウコが手に取ったのはシャワーズ、ベルがサンダース、私がブースターというポケモン――イーブイというポケモンから3匹とも進化する――らしい。
店主のおじさんにお金を払い早速首からブースターがトップに付いたネックレスを下げ、目配せをして笑いあった。
やっぱり親しい友達とのお揃いは嬉しく、なんだかくすぐったい。
それから綿飴を買ったり金魚釣りをしたり、途中会ったトウヤとチェレンにあんず飴を奢ってもらっりして過ごした。
トウヤとチェレンはこれから他にも行くところがあるらしくすぐに別れてしまったけど、別れ際に「誕生日おめでとうナマエ」と言ってくれた。勿論私も笑顔で「ありがとう」を言ったけど、うまく笑えていた自信はあまりない。
トウコ達と一緒にいるのもすごく楽しい。誕生日おめでとうを言われるのもすごく嬉しい。
これらに嘘はない。
けど、足りない。
本当は今一番一緒にいたい人がいる。おめでとうを言ってほしい人がいる。
「ナマエ…?」
不安げに私の瞳を覗き込むようにして見つめるトウコとベルに罪悪感。
……そうだよね、こんな素敵な友達と一緒に誕生日を過ごせるんだから欲張っちゃいけないよね。
「ごめんね、ちょっと考え事してた」
誤魔化す様に笑みを作って見せてもまだ2人は納得していないようだったので、強引に次の店に引っ張って行った。
「もうすぐ花火の時間だね」
河原の土手に腰を下ろした私たちは夜空に目を向けつつまったりと雑談をしていると、Cギアを見ていたトウコが言った。
「そうだ、私花火始まる前にラムネ買って来るね。ナマエとベルはここで場所取りしてて!」
そう言うとトウコは腰を上げてお祭り会場のほうに小走りしていった。
「トウコ、花火までに帰ってこれるといいね」
「そうだねぇ」
ベルと困ったように笑いあっているとライブキャスターが鳴り出した。
「あれぇ、わたしだ」
不思議そうに画面を見つめるベル。
それからちょっとごめんね、と言って立ち上がって少し離れたところで通信をし始めた。
「もしもし?」
「うんうん」
「え、でもそれって…」
「わかったよお」
ライブキャスターの画面に向かって百面相しているベルを見ているのはなかなか面白い。
暗闇に慣れてきた目にはしっかりベルの慌てっぷりや真剣に頷いている姿が丸見え。にやにやしそうになるのを必死に抑えているとベルが慌てた様子でこちらに戻ってきた。
「どうしたのベル」
「ごめんねナマエ、友達が近くにいるらしくて…ちょっと会ってきてもいい…?」
「そうなんだ。いいよ、行ってきなよ」
申し訳なさそうなベルを安心させるように笑うと更に申し訳なさそうに「本当にごめんねえぇ」と言って走っていった後姿に手を振った。
「トウコまだかなー」
一人になってしまうとさすがに暇だ。
暇つぶしにとCギアを起動させてみたりするけれど特にやることもなくて、溜息を一つ吐く。
その時、視界が暗転。
そして。
「「だーれだ」」
「ノボリさんと…クダリ、さん…?」
「正解」
暗闇から開放された視界の先にはクダリさん。
後ろを振り返ればノボリさん。
「なんで…」
「なにが?」
首をこてんと可愛らしく傾けるクダリさんの服はいつものサブウェイマスターの服なんかじゃなくって、灰色に白く細いラインが所々に入っている浴衣。
「お仕事、いいんですか?」
「ええ。今日は特別でございます」
瞬間大きな音と共にぱっと夜空に花が咲いた。
花火の明かりに照らされたノボリさんは濃紺のシンプルな浴衣だった。
「ノボリさんとクダリさんと一緒に花火が見れるなんて思ってもみなかったです」
胸がきゅーっと締め付けられて幸せな気持ちでいっぱいになった時、クダリさんとノボリさんが私の隣に腰を下ろして、私の手に優しく自分のそれを重ねた。
「わたくし達は貴女様と花火を見るつもりでした」
「そうだよ。一緒にお祭り来るためにぼくいつも以上に頑張って働いた」
悪戯っぽく笑うクダリさん。
「それでも少し時間が掛かってしまったのでご友人に手伝ってもらいましたが」
ああ、だからトウコ達がわざわざ夏祭りに誘ってくれたんだ。気を使わせてしまったかなと申し訳なく感じたけれど今度トウコとベルに何か奢ってあげようと自己完結。
「これがぼく達からの誕生日プレゼント!」
「お気に召していただけましたでしょうか?」
それから耳元でそう囁かれる。
「それは勿論。最高の誕生日プレゼントです」
するとクダリさんは満足そうに笑って私の首に腕を回して抱きつき、ノボリさんは私の頭をそっと撫でた。
「好きです」
「ダイスキ」
「「お誕生日おめでとう」」
「これからもよろしくお願い致します」
「ずっとぼく達と仲良くしてね」
「はい!」