データリセットとノボリさん





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彼女の髪の端からゆっくりと粒子のばらけの起こっているのが見てとれた。残念そうな顔で苦笑いしているその瞳に、思わず心の奥にしまいこんでいた言葉がこぼれ出す。あいしていました。


「過去形なんですか?」
「愛しています」
「今更ですね」
「わたくしもそう思います。遅すぎました?」
「いいえ。伝えてくれて、ありがとうございます」
「あなたはわたくしをどう思っていらっしゃいますか?返事を頂けませんか?」
「ずいぶん急かすんですね」
「こんな時ですから」
「そりゃそうですね」
「それで?」
「好きですよ、ノボリさん」
「愛は無いのですか?」
「愛しすぎておかしくなりそうです」
「……抱きしめても?」
「どうぞ」


ぎゅっと覆いかぶさるように強く抱きすくめる。夢にまで見た体温と匂いに恍惚となって、こんな終わりも悪くない。ソファへ押し倒して頬に鼻先をすりよせると、彼女はくすぐったそうに身をよじった。
「甘えたさんですねノボリさん」
「今日ぐらい良いでしょう?」
「いいですけど、照れます」


へらっと笑うその表情がどうしようもなく愛しくて、思わず口づけた。性急に舌を差し入れるとぎこちなく彼女も返してくれて、幸福感に頭が破裂しそうだ。どくどくと脈打つ心臓の音がうるさい。名残惜しく顔を離して赤く染まったやわらかな頬を撫でると、触れた指先とすべらかな彼女の肌の両方からドットがわずかにはじけて崩壊を開始する。さらさらとした小さな光の粒が重力に逆らうようにたちのぼり黒い空気に溶けて混ざっっていく。わたくしの視界も、もはや半分以上が暗闇に消えていた。


「もうなくなっちゃいますね」
「そう、ですね」
「次はもっと早く私のこと好きになって下さい」
「これ以上は無理ですね。一目惚れでした、か、」


とうとう声帯もやられてしまったようだ。ぱくぱくと無意味に開閉を繰り返すわたくしに微笑んで、彼女は光に包まれた指先を大儀そうに持ち上げる。


「なぁんだ、じゃあずっと前から両想いだったんじゃないですか、私たち」


空中で霧散した腕を見送り、ほぼ原形をとどめないソファへぐったりと身を沈めて彼女は言う。好きなの、私だけだと思ってたのに。そんなの、わたくしだってそう思ってました。言葉の代わりに唇をあわせる。彼女は嬉しそうに笑って、大気に溶けていった。世界のさいごをキスで締めるなんて、我ながらチープな物語だ。ありきたりすぎて笑えない。涙が出そうだ。ほとんど真っ暗な視界を隠すように目を閉じる。光がはじけて、完全な黒に塗りつぶされた。次のわたくしたちが幸せに暮らせますように。






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