知らん顔してクダリさん







私の片想いだしクダリさんは大人だし、わたしばっかりドキドキして好きになって、クダリさんは私のことなんかどうとも思ってなくて、それが寂しくて切なくて少し悔しい。


今日もクダリさんは絶好調、大胆不敵唯我独尊向かうところ敵なし。電車の壁をワイルドボルトでぶっ飛ばしてノボリさんにしこたま怒られてもどこ吹く風。実に飄々としたものだ。今も私の目の前で優雅にコーヒーをすすりつつ、つまらなそうに私が作成した今月の報告書に目を通している。


「ナマエ、ここ。誤字」


ぴらぴらと右手に持った紙を振って言い放った。「書き直し!」言われてることは最悪なのに、にこっと笑ったその笑顔にこっそりと胸を高鳴らせてしまう。


「また同じミスー。ナマエ、ちゃんと起きてる?コーヒー飲む?」


けらけら笑いながら私の帽子をポフポフ叩いてクダリさんはマグカップを差し出した。え、これ飲んでいいの?間接キスになっちゃうんじゃないの?受け取るべきか数瞬逡巡して、結局手を出せないまま帽子の下からうかがうようにクダリさんを見上げたら、「飲まないの?」と首を傾げられた。

「…いただき、ます」


取っ手を右手で掴んでクダリさんが口を付けていた方向と反対側から一口、あたたかいコーヒーを飲みこんだ。じわっと口に広がる苦みに思わず顔をゆがめると、クダリさんはまたけらけら笑いながらカップを右手で私から取り上げてそのまま口に運んだ。


…ええええええ!


分かってる分かってるよ私の事なんて意識してないからそういうことができるんでしょう、ノボリさんとか男の他の駅員さんとおんなじに扱ってるだけなんでしょう、でもせっかく私が気を使ってかかかかか間接キス、しないように飲んだのに!クダリさんのばかばかばかばかばか顔が赤くなってしまいそう!!


「目はさめたの?」


恥ずかしくってうつむいた私の頭上にいつもの声の調子でクダリさんが言葉を投げるものだから、好きで好きでしょうがないのって本当に私だけなんだなって思って、どうしようもなく悲しくなった。それでもやっぱり諦めきれなくてクダリさんの声ひとつで心臓がどきどきして幸せになって、死にそう。そろりと少しだけ視線を持ち上げたらカップをつかむクダリさんの手が見えた。綺麗で細くてしなやかで、でもちゃんと男の人だからごつごつした大きな手。

…あれれ??


マグの取っ手を握るクダリさんの手が小刻みに揺れてる。震えてる?また少しだけ視線を持ち上げてみた。クダリさんの顔が見える。「なに?」いつもみたいに私を小馬鹿にするような表情と話し方のクダリさん、けど耳が少しだけ赤い。


「なに、ナマエ。何見てんの、寝ぼけてるの?まだ起きてないの?もうひとくち?」


ニヤニヤ笑いながらずいとカップを差し出すクダリさんの耳は一層赤くて、すこしだけ期待してもいいのかな、なんて。







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