カンテラと夜とノボリさん







ぴかっぴかっ。ぴかっぴかーぴかっぴかっ、ぴかーぴかーぴかー、ぴかっぴかっぴかっぴかー、ぴかっ。


「ノボリさーん…!チカチカ眩しいです!やめて下さーい!」


電気の消えた暗いホームの隅っこからカンテラをこちらへ向け、ピカピカと光をつけたり消したり、何だか今日のノボリさんはうっとーしい。


ぴかーぴかっぴかーぴかー、ぴかーぴかーぴかー、ぴかっぴかっぴかー。


「ノボリさーん!早く帰りましょうよー!」


もうとっくに帰宅していい時間なのに、何でこの人こんな暗いとこで合図灯カチカチさせてるんだろう。ていうか眩しい。うっとーしい。何でこの人帰んないんだろう。あぁ眩しい。鬱陶しいなぁ。ノボリさんどうしたんだろう。いつもならこんな悪戯じみたことなんかしないで、終業時刻になったらぱきぱき帰る人なんだけどなぁ。眩しい。


「ノボリさーん…私帰っていいですかー?」

「いけません」


あれ、喋った。


「ノボリさーん、何なんですかー!何で帰っちゃダメなんですかー?」

「いいからそこに居て下さいまし!」


ノボリさんは再びこちらに向かって合図灯を点滅させ始める。

ぴかっぴかっ。ぴかっぴかーぴかっぴかっ、ぴかーぴかーぴかー、ぴかっぴかっぴかっぴかー、ぴかっ。ぴかーぴかっぴかーぴかー、ぴかーぴかーぴかー、ぴかっぴかっぴかー。
ぴかっぴかっ。ぴかっぴかーぴかっぴかっ、ぴかーぴかーぴかー、……あ、分かった。


「ノボリさ―ん!」

「………」

「私もですよー!」


合ってるかな、合ってなかったらこれ恥ずかしいな。こつこつと彼の規則正しい靴音が近づいてくる。


「…帰りましょうか、ナマエ」

「はい!」


ぎゅっとノボリさんの大きなあったかい手が私の右手をつかんだ。良かった。合ってたみたい。あぁ、顔が熱いなぁ。


暗くってよく見えないけど、多分彼の顔も私と同じくらい赤いんだろうと思う。握られた手をほどいて指を絡めるようにつなぎ直したら、一度ぎくりと身を震わせた後、隣でノボリさんが安心したように小さく微笑む気配がした。この人は案外小心者のようだ。






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