執事なノボリさんと庭師なクダリさんとお人形なお嬢様
「ナマエさま、ナマエさま、本日のおやつはお嬢様のお好きな木いちごのタルトでございますよ。タルトに合わせてお茶はフランボワーズをご用意してみました」
「ナマエナマエ、お庭にすっごく綺麗にバラ咲いた!!お茶飲んだら見に行こう!」
「こらクダリ、ナマエさまとお呼びしなさいといつも言っているではありませんか。まったく、ナマエさまがお叱りにならないのを良いことにあなたは」
「えー、ナマエがいいよって言ってくれたんだもん!」
「嘘おっしゃい!いつです!」
「んーっと、ずっと前!」
いつも通り騒々しい使用人だ。ぎゃいぎゃいとよく似たふたつの顔を突き合わせて口論をするこのふたりは私の執事と庭師である。
「ねーねー、ナマエ、タルト食べないの?お茶も、冷めちゃうよ?」
「ダイエットでございますか?必要ありませんよ、ナマエさま。若い女性はどうも必要以上に細くなりたがるからいけませんね」
「あ、じゃー先に庭にいこ!バラ見たいよね!僕連れてったげる!」
ぐいと腕を引っ張るクダリ。あらら、そんな風に手荒に扱ったら取れちゃう。
ぼろりと落っこちた私の右腕を慌てて拾い上げたノボリに、私はため息をついた。つもりになった。だって私はもう溜息なんてとっくにつけないものね。
「クダリ!気をつけなさい!あああああああああああああ、大丈夫でございますかナマエさま、いまお治し致します!」
ノボリは半分泣きそうな顔になりながら、急いでお茶のカップをどかし私の腕を嵌め直そうと袖をまくる。クダリも半泣きでごめんねごめんねともう片方の手を握りながら私の顔を覗き込んだ。あーあ。アレかしら、所詮似た者同士ってことかしら。ノボリもクダリも私も。変なのばっかりだわ、この家は。うっすら透けて向こうが見える自分の手で顔を覆って嘆いてみた。別に本当に悲観しているわけじゃないから悲しくないし、そもそも私はもう涙なんか出ないのだ。
ノボリとクダリは今日も私を模したお人形さんにごはんを出してお茶を淹れて花を贈って庭を散歩させて本を読んであげてお菓子を作ってあげてお湯浴みさせて着せかえてその髪を丁寧に乾かして、すてきな子守唄を聞かせながら寝かしつけるんだろう。毎日毎日飽きないのかしら。ふわんと私を通過していった、ノボリの紅茶のあたたかくて良い香りを楽しめなくなってしまったのだけは心残りである。