ドーナツとミルクとクダリさん







僕の前には、ホットミルク。ナマエの前には紅茶。ノボリは備え付けの簡易キッチンでコーヒーを淹れている。
僕たちが着いているテーブルの上には有名チェーン店のドーナツの箱。12個入り、1ダース。でも今は箱の中に9個だけ。ポンデリングは僕のお皿の上、アップルパイはノボリのお皿の上。そしてフレンチクルーラーはナマエの顔の前。僕はそれにちょっとイライラしてる。


「ノボリさーん、コーヒーまだはいらないんですかー?はやく食べましょうよー」


ドーナツの穴から覗き込んでノボリに声を投げかけるナマエ。にっこにこだ。対するノボリは普段とおんなじ何ともない声で「先に食べていていいですよ」とか言ってる。ちぇ、ドーナツ買ってきたくらいでナマエがこんな嬉しい顔するんだったら、僕もなんか買ってくれば良かった。こんどハートスイーツの詰め合わせでも買おう。人間用のやつ。ナマエはテーブルの下で足をパタパタさせて、まだドーナツの穴からノボリを見てる。


「ねぇ、先食べていいって言ってるんだから食べちゃおうよ」


ちょっと口をとがらせて言ってみた。前にやったらナマエが「クダリさんかわいー!」って誉めてくれた拗ね拗ねポーズ。少しだけ眉尻を下げるのも忘れずに。

「うぇ?あ、クダリさんはどうぞ先に食べて構わないと思いますよ、私が勝手にノボリさん待ってるだけですから」


ちらっと僕に視線を移してにこっと笑った後、ナマエはまたドーナツの穴からノボリを覗きはじめた!何なの、なんなの、ドーナツの穴を通して見るノボリはなんかおもしろい格好でもしてるわけ?モヤモヤする。腹いせにポンデリングの丸いやついっこをちぎってみた。ナマエはまだノボリを眺めてる。ちょっとノボリ、いつまでコーヒー淹れてるのさ!ちょうど僕の座ってる所からじゃキッチンの中は見えないんだけど、僕にだってわかる。きっとノボリ、自分のこと眺めてるナマエを焦らして楽しんでるんだ!ずるい!


「ナマエ」


声をかけつつさっき千切りとった丸い生地を、ナマエの覗いてるドーナツ穴に詰め込んでみた。軽く。ナマエはうひゃあとびっくりなのか楽しいのかよくわからない声をあげて、穴のふさがったドーナツを望遠鏡のように覗き込んだまま僕の方を向いた。

「クダリさん!前が見えなくなっちゃいましたよー!もう、あはは、何するんですか!」


詰めた生地をつまんで引っ張り出したら、目を細めてナマエが笑ってた。僕もつられて笑っちゃった。なんですか?おなかすいたんですか?ノボリさんが遅いから寂しくなっちゃったんですか?首をこてんと横に倒してナマエは僕に言う。んー、そうかな、おなかすいたなー。僕は笑いながら、つまんでたもちもちの生地をナマエの口に突っ込む。うあー、ノボリさんの事待ってたのにー!ともごもご言って、でもとても美味しそうに咀嚼しているナマエと、やっとコーヒーのマグを持ってテーブルに着いたノボリを見て、僕は言った。


「ノボリのアップルパイじゃ、千切ったら生地がばらばらになっちゃうね!」


わけのわからなそうな顔をしたノボリとむぐむぐ口を動かしてるナマエににっこりして、僕は少しぬるくなったミルクのマグに口をつけた。







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