シャツと太陽とノボリさん







太陽が少しだけ西の空へ傾きだした午後三時半。そろそろ洗濯物を取り込まなくてはと、読んでいた小説を閉じてローテーブルへ乗せソファから立ち上がる。ヒウンの街が一望できるテラス戸を開くと、春にしては少しだけ冷たい風が室内へ吹き込んだ。ベランダに置きっぱなしになっているサンダルを突っ掛け、干していた毛布から先に室内に入れてしまおうと顔をあげる。そしたら視界に広がったぱたぱた軽く風に煽られるノボリさんのワイシャツがダブルベッド用の大きなシーツが二人分の枕カバーが、いっぱいに太陽の光を浴びて薄オレンジの黄色に光っていて、それがなんだかとても綺麗で幸せで、胸の奥がぎゅうとあたたかくなった。ノボリさん早く帰ってこないかなぁ。今夜のお夕飯どうしようかなぁ。今日はちょっと寒いから、体があったまるものがいいかもしれない。お風呂の温度もほんの少しだけ高めに沸かしておこう。物干し竿から洗濯物を外して抱きしめるように抱えたら、洗剤とほのかにお日様の香りがした。素敵な匂い。思わず顔がほころんでしまう。太陽のぬくもりが残るそれは私の大好きなノボリさんの匂い。幸せだなぁ。私はおひさまの香りが大好きです。あなたもきっと好きになると思うな。だってとっても幸せな匂いだもの。空いている左手でわずかに膨らんできたお腹をそっと撫でる。感じるのは自分の体温だけど、小さなあたたかさが伝わってきた気がした。さて、そろそろお買いものに行かなくちゃね。室内に戻ろうとテラス戸に手をかけて、


ピピピピピピピピピ



忙しない電子音にゆっくりと閉じていた瞼を持ち上げると、カーテンを通過した光で薄い青に染まる天井が見えた。午前6時。

身をおこして尚もうるさく鳴り続ける目覚まし時計に腕を伸ばしアラームを切った。ピ、と最後の一音を発して灰色の四角いデジタル時計は沈黙。もう一度ぼふんとベッドに上半身を倒して軽く目を閉じる。……あぁ、そうか、夢。結婚している夢をみてしまった。しかも、相手は。ああ恥ずかしい、自分はあの人が好きだけれども、でもこんな風に夢をみるのはやはり、恥ずかしい。けど、恥ずかしいのだけれども、勝手にゆるむ頬を抑えきれない。1人ベッドの上でにやにやしている自分は、傍から見たら可笑しな人だろうけれど、今はここに自分しかいないから構わないのだ。自分とあの人が、結婚。しかも子供も。夢の中の話だと言うのに心臓がどきどきして、思わず掛け布団を抱きしめて顔をうずめる。昨日干したばかりの布団からは太陽の匂いがして、ますます幸せな気持ちになった。我ながら得な性分だ。あぁ、今日も一日が始まる。あの人に早く会いたい。まだ少し残る眠気を抑え込んで起き上がった。開けっぱなしになっていたクロゼットにかかる黒いコートが目に入る。…しかし、まさか彼女の視点で自分と結婚している夢を見るとは思いませんでしたね。






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