ばしんと音がして視界がブラックアウトして、それからその後どうしたのだっけ?重たい瞼を開けたら、超至近距離にジャッジさんの顔があって、思わず息が止まってしまった。


「やあ、ナマエさん目が覚めました?気分はいかがですか?体は大丈夫ですか?どこか痛くないですか?頭ははっきりしてますか?僕のことわかりますか?」


鼻が触れるかという距離でべらべらと捲し立てるジャッジさんに、ぼんやりしていた頭が今度は一瞬で凍りついた。こわい。


「ナマエさん見つけたと思ったらねぇ、こんな場所にいるんですもん、ラッキーですよねぇ。アハハ、こいつクダリさんから譲っていただいたんですよ、孵化あまりだって。こんな時の為にいるような子ですよねぇ」


ジャッジさんはサイドテーブルに置いてあったモンスターボールを視線で示しながらいつもの顔で笑う。


「…なんですか、何がしたいんですか。ここどこですか」


語尾が震えるのを必死に隠しながらめいっぱい虚勢を張って牽制する。ジャッジさんは表情を変えもしない。


「あ、そうだ、この隣の部屋ね、今ノボリさんいるんですよ。女連れですよ。ってそれ当然ですけど!アハハ!ねぇ、あの人、本当に鬱陶しかったんですよね僕!しょっちゅういろんな女とヤってるだらしない男のくせに自分は汚れてないみたいな顔して、それでナマエさんには純愛貫くぜ、みたいな?なァに言ってんだよって、ホント、笑っちゃいますよねぇ!」

にたっと笑ったジャッジさんの言葉が信じられなくって思わず目を見開いた。だって、あのノボリさんが、そんなことする人とは思えない。私の知ってるノボリさんは、厳格で、ストイックで、とってもかっこいい上司なのだ。というかこの人、ノボリさんが私を好きって言った?何?頭がぐちゃぐちゃになってしまってうまく考えがまとまらない。


「あれ、何ですか、知りませんでした?ああそうですよね、あの人ナマエさんにはそういうとこおくびにも出さなかったし。本当、むかつく。気取ってたって結局はそこらで腰振ってるただの発情期のくせにね!ナマエさんだってあの人の事、クールで尊敬できる人だって思ってたんでしょう?あんなに大事に、大事にされて、ハッ、実際はどんだけ穢されてたんでしょうねぇ、空想の中で?あ、妄想かな、どっちでも同じかな。それともなんですか、ノボリさんがあなたの事好きだってのも気づいてなかったんですか?うわあ、ノボリさん可哀想ですね!あ、でも僕としちゃラッキーなんですけど。だって、僕、ナマエさんのこと好きなんですよ。」

好きな人に向けるものとはおよそ違うだろう醜悪な笑顔でジャッジさんはぎちっと私の左腕をつかんだ。痛みでなく恐怖で悲鳴が漏れる。ベッドの上で後ずさった背中に壁の堅い感触がぶつかって絶望する。嫌だ。こわい!なんでもいいから助けて!

冷や汗がにじむ手のひらを握ってどんどんと白い壁を叩いた。にやにや笑っているジャッジさんのひやりとした手が私の輪郭をなぞって、首をなでて、それがゾッとするほど気持ち悪い。

「無駄ですよー、なんてこれ悪役のセリフみたいですね、あは、ノボリさんだって今頃はあっちの部屋でお楽しみで、」


がごっと変な音が聞こえたと思ったら、一拍遅れてジャッジさんが吹っ飛んだ。






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