どうにも気分が乗らなくて、今日の女とは何もしないまま早々に別れてしまった。


平手一発喰らったが別に大して痛くない。さて女は出ていったものの、利用時間はまだまだ残っている。どうしようか、まとわりつく鬱陶しい香水のにおいでも流そうかと立ち上がったが、それすらも嫌になってしまって、結局部屋を出ることにした。



放り投げてあった黒いロングコートを手にとり窓を閉めようとしたところで、ふと知った声が聞こえた気がして伸ばした手を止める。
かすかでない、あまり遠くない所から響くこの声は、…ナマエの?



いやまさか。そんな馬鹿な。彼女がこのようなところに来るはずは…ある、のか?息を殺してその声に神経を集中させる。これは、




「………!」




少なくとも同意の上で連れ込まれたなら上がらないであろう押し殺した悲鳴と、壁を叩く音が聞こえて部屋を飛び出す。考えるより先に隣のドアを蹴り開けて中に駆け込んだ。




間違えていたらと一瞬脳裏を掠めたが杞憂だったらしい。そんなことを考える間もなく今にもナマエのブラウスに手を掛けようとしていた青い髪の男を勢いのまま蹴り飛ばす。くぐもった呻き声をあげてそれは床にくず折れた。ナマエにその汚れた手で触るな!あぁ可哀想に、ナマエ、ナマエはすっかり怯えた目で男を見ています。あぁ、あぁ、ナマエ、大丈夫です、あなたに手を出そうと考えるような薄汚い男など、こんなイヌなど、わたくしが消してさしあげますからね。だからナマエ、このようなものに怯えなくても、おや?


ナマエがわたくしを見ています。わたくしが蹴り飛ばした男に向けていたのと同じ目で。
そろりとナマエの頬に手を伸ばせば、びくりと肩をふるわせて涙をたたえた瞳をぎゅっと閉じる。わたくしが困惑していると、ナマエはゆっくりと濡れた目を開き温度のない声でわたくしにこう言いました。


「甘ったるい匂いがしますね、ノボリさん」






目の前が真っ暗になると同時に、ぶちりと理性の切れる音がいたしました。






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