「ちなみに初夢って2日の晩に見る夢のことだよ」








はっとして目が覚めた。


がばっと起き上がるとすでに太陽はずいぶん高いようで、カーテン越しに柔らかい光が惜しげもなく部屋を照らしている。悪い夢を見ていた気がした。なんだか、そう、世界中の誰にも、お前なんか必要ないって言われたような、そんな夢。何をしてもどんなに頑張っても、誰にも認めてもらえない夢。これが初夢だとしたら、なんて幸先が悪いんだ。耳の方に流れていた涙をぬぐう。夢で泣いたのなんて何年ぶりだ。嫌な気持ちのまま顔に垂れる髪の毛をかきあげながらふと隣を見たら、でかいモヤシ、もといクダリさんが羽毛布団の上に転がったまま寝こけている。……寝苦しかったのはこのせいか!手が布団の端を握りしめているところを見るに、ベッドに潜ろうとしたものの、疲れのせいでそのまま寝落ちたのだろうな。しかしあの重苦しい夢がクダリさんの重さのせいだと判明した今、同情する気にはこれっぽっちしかならない。


「……もぉー……さいあく……」
「ん……なに……あれ?おはよう……?」


まだドロッとして半分寝ているような目を開きながらおはようを言うクダリさん。寒くないのかな、お布団入ってなくて。


「ちゃんと帰って来たんですね」
「うん、だって……僕ベイマックダリだから……きみのケアの、ロボットだから……ノボリがオボンの実、かじるし……メリープはイッシュにいないし……」


ケアとか言う割には悪夢をプレゼントしてくれてるけど。しかも多分、後半寝ぼけているぞこれ。布団を握りしめていた手が緩慢にシーツの上を這って、熱を求めたのかわたしの首筋にぺたりと張り付いた。風邪ひいちゃうってば。ずりずりクダリさんの下から羽毛布団の半分をひっぱり出して体にかけてあげた。むにゃむにゃ言いながら丸まっていた体をぐうっと伸ばしている。……チョロネコみたい。そのままもぞもぞ寄ってきて、脚を巻きつけてくる。都合、ハグされている抱き枕状態になる。とぎれとぎれに発せられるクダリさんの、いつもとはちょっと違う、低くごろつく声が耳元で聞こえてくすぐったい。ぞわぞわ。


「あのね、……もう、駅、たいへんで……人は多いし……」


あたたかい吐息交じりの眠たい声が耳朶にかかる。小さい呼吸音まで鼓膜に響くから、ちょっとドキドキ、しなくもない。クダリさんだからぜんぜん、意識なんかしないけど!


「ノボリは……きみ、いなくて、……ちょっとがっかり……僕も、……君、いないの、ちょっと寂しい……だからね、きみ、いないとだめだね……」


こしょこしょ、囁く声はいかにも眠たげだ。


「……意味わかんないです……」


顔は絶対赤い。あついあつい。上がった体温が心地いのか、クダリさんは完全に抱き枕状態でわたしへしがみついている。あつい、あつい。ぎゅうぎゅうする手足は剥がれない。


「だからね……泣かないでね」


視線だけ動かしてクダリさんを見たら、まだ寝不足に充血してトロンとした焦点の定まらない目をこちらに向けている。


「泣いてないですし……クダリさん、もう大丈夫ですから」


胴にまわされていた長い腕をごそごそと動かしわたしの頭を抱き込みながら、彼は目をとろとろ瞑って囁いた。「んん……だめ。スキャンしたところ、君は大丈夫じゃないです」側頭に大きな手のひらが触れる。「よし、よし……よしよし」ちくしょー、あったかい。




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