テレビ越しに修羅場を見る








イッシュTV白黒歌合戦が終わって、手持無沙汰にチャンネルをぷちぷち変えていたらどっかの番組でちょうど駅の中継映像を流していた。『こちら、ライモンのギアステーションでは初詣に向かう人たちでごった返しており―――』女子アナウンサーの、ほとんど叫ぶような声が雑踏に交じってスピーカーから吐き出される。見る限りすごい人なみだ。今日が仕事じゃなくて良かったなぁなんて軽い優越感を覚えると同時に、こんなにもたくさんの人で埋まってる駅と対照的にすっからかんの自分の部屋が妙に寂しい。


「……年越しそばでも食べようっと」


確か昨日クダリさんが買って帰ってきたカップのおそばがあったはず。一瞬『こんな時間に食べたら太るよ』と脳裏をクダリさんが掠めたが無視した。


「おそば、おそば、……えっこれうどん!うどん!?」


台所に置きっぱなしだったビニール袋から出したカップはふたつともうどんだった。太く長く生きたいというクダリさんの願望のあらわれなのかもしれない。あるいは『白い方のサブウェイマスターらしさ』を前面に押し出すべくうどんにしたのかも、そばだと灰色っぽくてどっちかって言えばノボリさん感があるから。こじつけだけど。ヤカンでお湯を沸かして、プラスチックのどんぶりにそそぐ。あ、これ、力うどん。


「クダリさんてば全力で白を推してるなぁ……」


みょーっと伸びる小さい餅を箸でつまみ上げつつ再びテレビに目をうつす。未だライブカメラはギアステーションの人混みを映している。恋人と一緒に初詣行くんですよぅ、なんて、可愛らしい格好をした女の子が男の人と腕を組みながらカメラに向かってはにかんでいた。


「いいなぁ」


何となく呟いた言葉は、うどんから立ち上る湯気を一瞬揺らしてそのまま消えた。何に対して羨ましく思ったのかわからない、ただなんとなく口をついて出た言葉。手元のカップに視線を落とすと、スープに半分溶けてとろりとしてしまった餅がこちらを見返してきた。クダリさんのダウンジャケットみたい。


顔を上げる。テレビの中では駅のごみごみした様子が延々垂れ流されている。白い帽子、白いスカート、白い手袋、なぜか白い服にばかり目がいくので自分でも不思議に思ったが、どうやらわたしはクダリさんの姿を探しているようだ。


黒いコートより白いコートの方が目立つから、知り合いを見つけようとして白ばっか追っちゃうんだ。きっとそうだ。あのでかモヤシめ。いらない時に押しかけてくるくせ、探そうと思うといないんだから。




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