床で寝たら風邪ひくぞ
「泊まってくのは100歩譲って別に構わないです、が、わたしお客様用の布団とか用意してないですよ」
暗に帰れと言ってみた。わたしの住まう独身者用アパートはそもそも一人用であるからして、複数人が住み込むことのできるような造りにはなっていない。自分で使っているベッドの他にフカフカしたものっていったら、せいぜい押し入れの中にぺたんこで入っているバランスボールくらいだ。
「あ、大丈夫このダウンジャケット……ごほん、ベイマックダリのスペシャルウェアはここのチャックを開くと、じゃーん!寝袋にもなる」
「えぇー、絶対体痛くなるでしょそれ……」
広げたジャケットはどう見ても子供用だ。着ていた時より平べったくなったモコモコにもぞもぞともぐりこむクダリさん。体の半分くらいしか隠れていない。
「大丈夫だいじょうぶ、……足ははみ出すしお腹までしか隠れないけど全然へいき!僕頑丈だから!」
長細い手足を縮こめて寝転がる姿は哀愁しか誘わなかった。なんてかわいそうなんだ、これうちのボスなんですよ。
「一緒に寝ましょうよー、ベッド、つめれば二人入りますよ」
「……一緒に寝ると君の身の保障ないけど」
無理やりに鼻先まで引っ張り上げたジャケットの陰から、居心地悪そうにチラチラとこちらを伺っている。……モコモコに包まれているとはいえ、彼が寝転がっているのはフローリングの床だ。体痛くならないのだろうか。ていうか冷たくないのだろうか。
「あぁー、ノボリさんから聞いてますよ殺人的な寝相だって」
「締め上げる対象が毛布でなければとっくにノボリを何回か殺してる」
「やっぱ床で寝てください」
嘘ウソ!ごめんって締め上げたりしないから!何ならロープとかで縛りつけてもいいよごめんなさい!そう言ってクダリさんが差し出したのは明らかに短すぎる紐である。パーカーの紐みたいに見える。「何ですかそれ」「靴紐」くつひもだった。
「そういうアブノーマルプレイいらないんで……それはそうとクダリさんてノボリさんと一緒に寝てるんですか?行き過ぎた兄弟愛?」
「子供のときの話だから。流石に今は一緒に寝てないよ、せいぜい月イチだよ」
「それ結構頻繁じゃないですか、くわしく」