没ふたつ

自分は弱くて、とてもとても弱くて、だから誰かに縋ってしまったらもう一生ひとりでは立っていけない気がした。座り込んでしまいたいときでも誰かの手を借りたくなかった。だって一度差し伸べてくれる手を握ってしまったら、その先二度と自分の力だけでは立ち直れなくなりそうだったのだ。地面に転がってしまいたくなったとき、全て投げ出してしまいたくなったときには心の中に愛しい人を思い浮かべ、その人に恥じぬ自分であろうとだけ、その想いだけで顔を上げられた。つまりまさしく彼女は僕にとっての神様も同然だったのである。



「でもクダリさん、人が困ってたら手差し出してあげるじゃないですか」
「……まぁそうだけど」
「何で?ちょっと矛盾してる気がします」
「僕みたいに弱っちい人はいないから、助けてもそのあとに助けなしじゃ立ち直れなくなる人いないから、助けても大丈夫なの」
「何言ってるんですか変な理屈!わたしたちからしたらクダリさん、とっても強い人なのに。すっごい強いのに、クダリさん。尊敬してるんですよ、わたしたちみーんな」

そう言って彼女は、僕がいくらいらないと言っても強制的に僕をその言葉で立ち直らせるのだった。彼女がいないと僕はもう一人じゃ立ち上がれそうになくて、でもそうだ、どんなに潰れそうになった時であっても、何てことないような優しさで休ませてくれる彼女のところまではとりあえず這いずっていけそうだと思う。その場でぐったりはいつくばっているのではなく、彼女に引っ張り上げてもらいたいその一心でその足元まではたどり着けるんだと思う。

「甘やかされると、いやだ。君がいなくなったら、もう頑張れなくなっちゃう」
「いなくならなきゃ良いだけの話じゃないですかー」

ほらまたそうやって甘やかすんだ。僕を甘くてずぶずぶの、溶けたチョコレートみたいな底なし沼に引きずり込むんだ。嫌だ嫌だ、君ってヒドイ。酷いなぁ。



***


自分の1番好きな人にだけ愛されないのと、最愛の人以外の全ての人から疎まれるのと、どっちが辛いんでしょうねってノボリさんに聞いてみたら曖昧な苦笑をされたわりに「好きな人にだけ愛されない方が辛いでしょうね」って即答された。

「そう思いますか?」
「思いますよ」
「どうしてそう思うんですか?」
「だって……世界中がわたくしを疎んだとしても、1番お慕いしている方が愛してくださるのですよ?他には何もいりません。わたくしなら」
「そうですかねー…」
「分からない子ですね。ナマエ、愛していると言っているのです。わたくしだけ見ていれば良いのです。他はいらないんですよ」

それだったらクダリさんの愛が欲しかったなぁって思いながら、ぷらぷらノボリさんの腰の高さで揺れてる自分のつま先を眺めた。薄く革靴の色が見えるだけで、あとはコンクリートの床が透けている。

「クダリさんに盛り塩やめてって言ってくださいよ」
「ナマエがわたくしを1番好きになったら、言ってもいいですよ」




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