見ているのは楽しいが巻き込まれると腹立たしい








「ノボリさんってゴミ拾いが趣味なんですって。なんでも空き缶が落ちてたら絶対に拾ってきちんとゴミ箱に捨てるんだとかなんだとか!しかも駅構内だけじゃなくお外でもそのボランティア精神を実施してるんだそうですよ、森に入ると必ず4つ5つは空き缶を手に出てくるって聞きました。まぁ何でか知らないですがアルミ缶には目もくれずスチール缶だけを集めるご趣味の方なんだそうですが!」
「それ単にボスのじりょくで空き缶が引っ張られてるだけやん。いいからはよぉそのゴミ缶捨ててき」
「これは我らがボスの趣味のためにあえて放置してる缶です」
「じゃあせめてサイコソーダかおいしいみずの缶にしたりや。飲み切ったと思っても中には残ってんで、ミックスオレなんぞ被ったら可哀想やろ」
「これはミックスオレじゃありません、コンポタ缶です」
「なお悪いわ!」


もちろんノボリさんの趣味が空き缶拾いじゃないことは百も承知である。どちらかというとノボリさんは空き缶恐怖症のケがある方で、缶入りのドリンクよりペットボトル飲料の方を好む人だ。わたしたちてつどういんが缶ジュースを片手に談笑しているシーンを目撃した場合、さっと柱の陰に隠れて「それはスチール缶ですか!?アルミ缶ですか!?」とか聞いちゃうタイプ(ちなみにクダリさんだと「それって無色の飲み物!?それとも色付き!?」という質問になる。以前ノボリさんの磁力にひっぱられてすっ飛んだ缶の口から飛び散ったコーヒーの飛沫を頭からひっかぶったのが未だにトラウマみたい)。ギアステ構内に設置してある自動販売機の商品ラインナップから缶系の飲料をなくしたいと提案したこともある(ノボリさんの提案に乗じてクダリさんまで「色付き飲料の販売を停止に」と案を出した。ついでに言うとわたしもその混乱に乗じて「おでん缶をラインナップに加えてください!」と直訴した。もちろん3つとも却下された)。


「これはね、クラウドさん……実は空き缶じゃなくて便利グッズなんです」
「なんの役に立つん」
「……防犯とか……あっ魔除けとか」
「あっ言うたな今。今考えたんやろ」


まあ、今考えたというのは本当だけど。でも実際、役に立つのだ。たとえばそう、今わたしのデスクの上でカタカタ細かくと震えだしたコンポタ缶。置いた場所は平らで角度もないのに、ズルリズルリと動いている。ある種オカルトチックな雰囲気さえ醸し出すその現象の数秒あとには必ず、


「シングル勝ちま、ァ゛ッ!?」


ノボリさんが意気揚々と駅スタッフ控室に入ってくるのであった。コンポタ缶は見事彼の頭にスッ飛んでいき、すんでのところで缶を躱したノボリボスの格好いい制帽を跳ね飛ばしてドアにぶつかった。


「……スチール缶を持ち込まないでくださいましって、わたくしあれほどお願いしたのに……!」
「ごめんなさいノボリさん、あまりにもコーンポタージュが飲みたくてですね」
「先週もそう言ってたじゃないですかナマエ、だからわたくしカップスープの素買って差し上げたじゃないですかナマエ」
「エヘッちょうど昨日飲み終わっちゃって!」


まあ良いですがコートも汚れませんでしたし、と渋々納得した顔をして、地面に落ちたあと床を転がってから彼の脛にぺったりと吸い付いたスチール缶をノボリさんは引きはがしてゴミ箱に投げ入れた。蓋つき、底に強力磁石つきの専用ゴミ箱。バリアフリー仕様と言えるかは微妙なところである。


「今日は一段とじりょくが強いですねノボリさん。何でですか?周期でもあるんですかー?」
「さて……分からないですが、高揚すると強くなるような気はします」
「え?興奮?」
「……間違いではないですが!」


そうかそうか、ノボリさんは興奮すると(じりょくが)ギンギンになっちゃうんだ。とんだ変態さんだな!変態って言うか、変体質って言うかだけど。あっこれあんまりおもしろくないな。


「それはそうとノボリさん、今の時間はー?そう、なんとお昼です!わぁちょうどいいタイミング!」
「何ですかわざとらしいですね。いいですよ、財布になりましょう。仕方ないですね」
「やったー!」
「クラウドも行くでしょう?ナマエだけというわけにはいきませんから」
「え、何か悪いですけど。じゃあありがたく」
「わたしパスタが食べたいでーす!」
「食器が鉄製じゃない店を選んでくださいまし。死活問題なので」
「えー。じゃあうどんで」


磁力を帯びてるくらいなんだからノボリさんの体じたいも鉄か何かでできていたら便利なのにね。そしたら金属片がぶつかっても怪我する心配なんかしなくて済むし、うっかりセラミックやチタン製じゃない包丁を近づけてしまった場合にも死の危険を感じなくていいじゃないか!


「ね、ノボリさん!とくせいじりょくってくらいだからノボリさんの体も鉄製の、」


がちゃ!とあまりなにも考えずに扉を開いたら、運悪くベストバッドな場所に置いてあったゴミ箱(ノボリさん仕様じゃない普通のやつ、しかも空き缶専用のゴミ箱だ!だれだスタッフオンリーのドアの近くにこんなもの置いたの!)をドアで跳ね飛ばしてしまった。コンクリートに散らばる空き缶たち。幸いホームにトレインはまだ到着していなかったものの、


「え?どうしました?」


ヒョイと不用心にわたしのうしろから顔を出したノボリさんめがけ、空き缶たちが地面を蹴っ、たぁぁぁ!当然ノボリさんと空き缶ズの間にはわたしが立っているわけで。あぁ儚い人生だった。せめてかきあげうどんを食べてから死にたかった。まさかゴミ箱から出て来た空き缶なんかにぶつけられて死ぬなんて!……とか思ってたけどさすがに空き缶程度では死ななかった。第一陣のサイコソーダ缶がわたしの頭を直撃し中にまだ中に残っていたらしい飲み残しで髪をべったりと濡らした直後、「きゃああ」とまるで女の子みたいな悲鳴(ただし性別相応に低い音域ではあった)をあげてノボリさんがわたしを抱え込むと、そのままメインホールに向かって走り出した、あぁぁぁ!?


「ちょぉぉ!!ノボリさん、ノボリさん空き缶追ってきてますけど!?ねぇ!?」
「わかってます、だから逃げるんでしょう!」
「逃げるのはいいですけどわたしのことは置いて行ってくださいよ!」
「部下を見捨てるわけにはいかないでしょう!?」
「ノボリさんと一緒だから空き缶に襲われるんですけどぉぉ!?」


あっけにとられた顔でスタッフオンリーのドアから半身を出したままわたしたち(と空き缶軍団)を見送ったクラウドさんへ、ノボリさんに担がれた後ろ向き姿のまま「助けてー!!」と叫んだがガラガラ音を立てて追ってくる空き缶の騒音で声が届いたかどうかは疑わしい。なまじホームがよく音を響かせるせいで、今やわたしたちちょっとした騒音公害の元凶ですらある。


「ナマエ!ナマエ大丈夫かー!えっと、そういえばウノヴァの方の新婚さんが結婚式会場から車で出てくときに後ろに空き缶付けてひっぱってガラガラさすの、あれ魔除けなんやってー!知っとったー!?」
「なんでそれ今言ったんですか!?すごいどうでもいいんですけどぉぉ!!」


何かあんたらのその姿見てたら思い出したからー!空き缶の音に負けそうになるクラウドさんの叫び声に、知らんわー!とやけくそで叫び返した。じゃあさながら俵担ぎでノボリさんに運ばれてる私は花嫁さんか。サイコソーダをウエディングベールに被ってるなんてみじめったらしいにもほどがあるぜ。ノボリさんの骨ばった肩がお腹にゴスゴス当たって超痛いぜ。私の脚を抱えるノボリさんの腕にぎゅっと一層力が入った。ガラガラ磁力に引かれて追ってくる空き缶も一層強く跳ね飛んだ。あぁ、すべてがスローモーションに見える。これコーヒーの缶だ、中身跳ね飛ばしまくったせいでホーム汚れちゃったな。飲み残しをそのままにして捨てたの誰だよちくしょー。クリーニング代請求してやる。





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