上司はタフなひとだと思う








「ナマエ、ノボリのボスがおらんのやけど。知らん?」
「あ、じゃあ探しますね。すいっちおん」
「え」


耳を澄ます。がこんがこんと動きだしたごっつい電磁石の駆動音にまじって、ずりずりと何かが引きずられるような音。それと、悲鳴。


「ぁ、ぁぁぁぁ………!ぅ、グッ……」


どすん、と鈍い音が壁を隔てた隣から聞こえた。バチン!電磁石の電源を切ってクラウドさんを振り返る。何故か頭を抱えている。


「ノボリさん仮眠室にいたみたいです!」
「……お前なぁ……知らなかったなら別に、よかってん……わざわざボスくっつけんでも……」
「え?そうなんですかいっけねー」
「荒っぽい起こし方されて災難やなぁ……」


ホッチキスで止めた紙の束を片手にクラウドさんが事務室のドアを開けた。振り返って、ぱたぱた空いた方の手のひらでわたしを呼ぶ。


「ナマエも来ぃ、わし1人で謝るん嫌やわ」
「うぇ、へぇぇーい」
「ナマエボスの前では良い子にしてろや」
「いつも良い子です」
「どの口が言うん」


謝罪の文句を唱えつつ仮眠室のドアを開けたら、一番奥で壁に背中を預けてノボリさんがぐったりしている。






「う……うわぁー!ノボリさんが……死んでる!」
「死んでへん」
「なむあみだぶつ」
「……死んでませんこの薄ら馬鹿」
「もう一回スイッチ入れてきます」
「やめなさい、わたくしを何度壁に叩きつければ気が済むのです!」


ごほ。咳込みつつノボリさんは立ちあがると、じろりとわたしを(クラウドさんも一緒なのに!何でなにかあるとすぐわたしを疑うのか)睨みつけた。うわ機嫌悪そう。


「それで、何のご用でしょう?わざわざ磁石を使った程の、用件とは」


厭味ったらしく紡ぐのでつい「最近流行りの宗教団体にノボリさんが誘拐されたんじゃないかと心配あいたぁ!」「適当なこと言うなや」でこぴんされた!


「すんません。わしがナマエにボス知らんか言ったんです。今月の報告についてやったんですが、ナマエは緊急の用事と思うたみたいで」
「ほぉ……そうなのですか?本当ですか?」
「はい!あんまりクラウドさんの顔色が悪かったからボスに何かあったんじゃないかなって心配で心配で思わず」
「いやこれは二日酔い」


もごもごと何か呟いてるクラウドさんを尻目に、まぁいいでしょうってノボリさんはため息を吐く。


「あれはもっと差し迫った時に使って下さいね、お願いしますよ」
「はい。ほらナマエも」
「はーい」
「よろしい。ではそれを置いて業務に戻りなさい」
「どうぞ。いくでナマエ」
「イエッサー」
「ナマエは置いていくように」
「……はい」
「えぇ!」


憐れむような視線をこっちによこしただけで、無情にもドアが閉められる。わぁぁやめてよノボリさん今日機嫌悪そうなのにふたりにしないで!じっとり半眼でこっちを見ているノボリさんにギシギシした笑顔を返すが笑顔は返してくれなかった悲しい!ドアがガチャリと完全に閉まった。スゥッとノボリさんが息を吸い込む音がしたので、怒声に備え首をすくめる。オッケー、怒鳴られる準備は出来た!


「……げッふぅ!!ごほっ!ウェッ!……あーまったく死ぬかと思いました!ちょっとナマエ!やめてくださいよもう!お昼のラーメン出す所でしたよ!」
「……あれぇー?」


あんまり怒ってなかったっぽい!ノボリさんはげふんげふんと大げさにせき込んでズルズルと(多分さっきまで横になっていたのであろう)ベッドに身を引きずり、「あー背中痛いですほんとにもー」とぐちぐち言いながらごろりと転がった。


「あっえっとぉー、ノボリさん怒って、ない?んですか?」
「怒ってますよ!背中痛いですよ!」
「あわわごめんなさい」
「ごっほ!……ハッこれもしかしたら内臓寄ってしまったかもしれません、右側に心臓がない」
「え、ノボリさんって心臓右にあるんですかスゴイ」
「冗談も通じないのですかあなたって人は」
「騙された!ノボリさんならありうるのかなって思ったのに!」


ハハッあなたって本当に馬鹿ですねぇとついさっき壁に叩きつけられたばかりの人とは思えないほど良い笑顔でノボリさんが笑った。床に落ちてた誰かのタイピンがカタカタ震えだしたと思ったらすっ飛んでって彼のオデコに当たった。怖い。





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