「振ったんですか。珍しい」


ふぅぅ。ココアの香りをため息とまじらせて嘆く兄に、エメットはぎくりと肩を震わせた。彼の兄であるインゴはカタカタとキーボードに指を踊らせつつ、ほこほこ湯気の上がるマグカップを時折口もとへ運んでいる。「……珍しいって」「来るもの拒まずじゃないんですか?勿体ない」ついとデスクワークの時だけ掛けている眼鏡のブリッジを押し上げつつどうでもいいことのようにそれを喋るインゴより、エメットは彼の隣で今日はココアを嗜んでいる彼女の方が気がかりだった。遺失物の件でと誤魔化したことを、彼女に知られてしまうのは居心地が悪い。しかし自分が告白を受けたと知って彼女がどんな反応をするのかということにも、少しだけ興味があった。


「来るもの拒まずじゃないよ、そんな、僕が軽薄な奴みたいな」
「おや、そうでした?」


ちらちらと視線を飛ばして見つめるも、エメットの方を向きもせず彼女はココアの表面をじっと見つめていた。肩には少しだけ、こわばったように力が入っているようである。エメットはそれに気を良くしてしまって、多少気が大きくなるのを自覚しつつも止められない。


「そうだよ、ここ最近の子は全部お断りしてる。僕、す……きな人、が、いるんだから、さ」


それは知りませんでしたねぇと心底どうでもよさげにココアをすすったインゴと反対に、彼女はピクリと身を震わせてからマグカップを握りしめる手のひらに力を込める。ツッと本当に少しだけ、しかし隣に座っていたエメットには充分わかるくらいの距離、彼から身を離した彼女にエメットはたいそう気分がいい。気付かれないようにそろりと覗き込んだ彼女の眉間には薄くしわが寄せられていて、エメットは後ろめたさの混じる幸福感でいっぱいである。彼女はきっと、エメットの想い人に嫉妬しているのだろうと思った。それが自分のことだなんて思わないで、彼女はエメットに恋慕われている誰かに嫉妬してしまっているのだろう。




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