頼りなげに肩を震わせて一生懸命に思いのたけをぶつけてくる女の子に、エメットが心惹かれそうにならなかったと言えば嘘になる。自分に好意を寄せてくれる人に無関心でいるのは、人間誰しも難しいものだ。彼は至極一般的な男だったので、耳まで真っ赤にして好きですと告げるその女の子に、やはり揺らいだのは事実だった。よくよく見れば可愛らしい顔立ちをしている。


「あ、のね、僕、その、ありがとう」
「恋人がいないんだったら、エメットさん、付き合って下さい!」
「えぇと」


浅ましくもエメットの脳内では天秤が振れ出す。ここで恋人を作ってしまおうか、それとも手に入るかどうかも分からない彼女を追い続けるか?この女の子を彼女にしてしまうのはそれは容易いけれど、なんだか自分自身を騙しているようで少しだけ気分も悪い。代替品として扱われるこの女の子にも悪いだろう。けれどもここしばらく恋人というものを作っていなかったエメットにとって、甘さを提供してくれる存在というのは堪らなく魅力的に思えた。ぐらりと天秤が大きく傾くのが分かる。


「僕……うん、今恋人いないよ」


期待したように目を見開いた女の子を前にしかし、ぽこりと脳裏にちらつくのはやっぱり彼女の姿で、天秤は落ち着きなくゆらゆら振れた。優柔不断だと自分でも思ったけれど目の前に甘美な選択肢がふたつもあったら迷うのが人間というものである。口をもごもごさせ決定的な言葉を紡がない彼に不安そうな視線を向ける女の子を見つめふと、エメットはその向こう、遠くに彼女の姿を見つけた。走り寄りたそうなのを我慢するような、エメットと女の子のただならぬ空気に戸惑うような、そんな顔をしている。遠くからでもエメットは彼女の表情だけはどうしてか読み取れるので、こちらが気になってしょうがない彼女の心情まで伝わってくるようなその顔に思わず見とれそうになった。続く言葉は驚くほど自然に口をつく。


「でもね、僕、好きな人いるんだ。ごめんね。気持ちはとっても嬉しかった」


そうですか、分かりましたと悔しさや恥ずかしさや悲しさが混ざった笑顔を見せてから顔をそむけ早足に立ち去った女の子は、彼女とすれ違う時に少しだけ肩を震わせたようにエメットには見えた。入れ違いに近寄って来た彼女は女の子が歩いて行ってしまった方へちらりと視線を向けてから、エメットを不安げに見上げる。「ちょっとね、遺失物についての話してたんだ」そううそぶいたエメットの言葉に、彼女は疑うこともなく頷いて「はやく見つかるといいですねぇ」と囁くように零す。安心したように「じゃあ、お茶にしましょうよ」なんてはにかむ彼女の手を取ると、少し慌てたように目を見開くのが面白いと思った。ひんやりした空気を切ってすすんで、エメットは頬の熱くなるのを誤魔化した。




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