「お茶にしましょうよ、エメットさん」


そうやって彼女がエメットを誘うのは別段特別な出来事ではなく、例えば隣人とすれ違った時に挨拶を交わすような至極当たり前のことだった。お茶を差し出されるのは決まって彼が少しだけくたびれている時だったので、エメットは彼女がどうしてタイミング良く休憩を入れてくれるのか少し不思議だ。そうしてふたりで静かに一息つきながら、何気ない会話に興じるのがエメットは好きだった。休憩室の少々ぼろっちいソファへ向かい合ってでなく隣同士で座るから、緩む頬だとか少し赤くなる耳だとかも彼女に気付かれてしまわなくって都合良い。お茶を入れたマグカップをふたつ持って時分の隣へ当たり前みたいに腰をおろしてくれる彼女に、エメットはいつだってくすぐったい気持ちになるのだった。


「こうやってのんびりエメットさんとお喋りしてる時間が一番好きですねー、私は」


なんてことないように呟かれた言葉に酷く動揺して、エメットは咥えていたクッキーをぽろりと唇から落っことした。彼女はマグカップから立ち上る湯気のらせんを飽きもしないで眺めている。あぁ、うん。僕も。突っかかりそうになりながら努めて平静を装った声を出すエメットに彼女はようやっと気付いたようで、くすくす笑いながら未だ彼の膝に落っこちたままになっていたクッキーの欠片を拾い上げるとそれをそのまま自分の口へ放りこんだ。あ、と若干焦ったような戸惑ったエメットの声にニヤリと笑い「ごちそうさまでした」と自分の唇を舐めてみせる彼女の顔を見てられなくって、顔をそむけるとからかったようなくすくす声が聞こえる。年下のくせしてたまに自分を手玉に取るような行動をしてみせる彼女が、エメットは時々憎らしい。




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