最近のエメットの悩みの種といったら、兄が自分に書類の束を押しつけてくることでも朝食の目玉焼きがうまく焼けない事でもなくって、職場の人間関係のことだ。それも主に、恋愛の。




灰色の髪の毛になまっちろい肌、そして髪の毛とお揃いで灰色をした瞳のエメットはここいらじゃちょっとした有名人だ。鉄道系勤務という、聞こえは堅実そうな職についているがその実彼の仕事と言ったらエンターテイメント方向にどちらかといえば傾いている。インフラとしてももちろん機能しているが電車の中でバトルをするアミューズメントパーク施設も併設している、バトルサブウェイという場所がエメットの職場だった。彼はここで、双子の兄と一緒にボスをやっている。ちょっとした有名人というのは、その施設において彼らとまみえることが乗客たちの一種のステイタスになっているためだった。バトルの技術を抜きにしたら実に凡人である彼は、今の職につけたことをとても幸運だったと思っている。自分の才を存分に活かせることと、それから良い人々に会えたこと。具体的に言うならエメットが幸運を感じるのは、彼の想い人に触れ合っている時のことだけれど。


「エメットさん!」


アイビーグリーンのタイトスカートでめいっぱい足を動かし自分に向かって走り寄ってくる彼女を見るのが、エメットは何より好きだった。彼は色の名前なんかおおざっぱな7色くらいしか言えないけれど、彼女が制服のカタログを見比べつつ多分これはアイビーグリーンだろうと教えてくれた色の名前だけは知っている。落ち着いた深くて綺麗な緑色だ。ただエメットは曖昧な色彩の違いを見分けられるような男ではなかったから、彼にとって緑系統の色たちは総じてアイビーグリーンと認識されている。


「あのね、さっきお客様からお菓子をいただいたんです!」


ほら、と大事そうに抱えられた箱にかけられている包装紙には可愛らしいイラストが印刷されている。改札を担当する彼女はその場所柄、時折お客様からの差し入れを受け取ることも多かった。せっかく持ってきてもらったものを無下にするのも失礼なので、エメットたちはそれをありがたくいただいている。今日貰ったそれはどうやらお饅頭だったらしい。


「エメットさん、今日は私と時間一緒だったでしょう。見回り終わったらこれ、頂きませんか?」


最近は少しね、お茶の淹れ方勉強してるんですよー。ちょっぴり得意げに笑っている彼女に歩調を合わせて、エメットは頷きながら微笑んだ。嬉しかった時、悲しかった時、それから上に指示を仰ぐ時もだけれど、何かあったらすぐ自分のもとに走って報告しに来てくれる彼女がエメットは好きだ。ポケモンが主の後ろを歩くみたいにチョロチョロと、いつも彼を気にして動く彼女をとても可愛いと思っている。そしてそう思っているのが自分だけでないことも、エメットはもちろん知っていた。だけど彼女がことあるごとに後ろへついていくのはエメットに対してだけだったので、彼の自尊心はいつだって8割がた満たされている。




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