所有権







「なまえ、僕のものになって」


って、いつもと同じトーンで言われたから一瞬何のことか良く分からなかったし、びっくりして振り返ったら思ったより近くにあったクダリさんの顔を見てもやっぱりいつもと同じににこにこしていたからその言葉が意図するものなんて良く分からなかった。子供っぽい身の振り方をするかと思えばずっと大人に見えるしぐさをして見せる彼はどうも日によって歳がまちまちに見える年齢不詳男なのだが今日は一段とそれが顕著である。すりっと髪を分けて首を撫でる手は手袋越しでも暖かい。


「ねぇ」
「え、あぁ」
「聞いてた?」


これが他の男性に言われた事だったら、もちろんわたしもそこまでの馬鹿じゃないので顔のひとつやふたつ赤くする所だ。けれど如何せん本日の相手はクダリさんであるので、つまりどう反応を返していいものやら見当がつかない。恋愛的な意味でそう言っているのか、それとも単純にわたしの所有権をよこせと言っているのだろうか。いや、人間に対して所有権を主張されても困るんだけど。どう返すのがベストなのかわたしには分からない。クダリさんはいつも通りに微笑んだままわたしをじっと覗きこんでいる。


「えっと、わたしがクダリさんのものになるっていうのは」
「うん」
「それは、ええと、具体的にどうなるんですか?」
「具体的に?」


君が、僕のものになったとき、具体的に。ううん、とクダリさんは目を細めて首をひねる。この顔は先週の会議の時も見た。確かどうやったらバトルサブウェイにお客さんがもっと来てくれるかとか、そんな議題の時のやつ。しばらく目を細くして考えて、クダリさんはようやく口を開く。


「えーとね」
「はい」
「君が僕のものになると」
「うんうん」
「君は僕の言う事を聞かなくちゃいけません」
「えー」
「でもヤなことは嫌って言っていい」
「えー?」
「あと、僕のものになったら君は僕に我儘が言えます」
「わがまま」
「うん、そう」
「今以上にですか?」
「そう、今よりもっとわがまま言える」
「うーん」
「それから、僕は君に対してちゅーする権利を獲得します」
「……んー」
「あと、ぎゅってしたり夜中に電話したりする権利もです」
「それは今もですよね」
「その他にも色々出来ます。ただし君はそれを拒否することもできます」
「うんうん」
「他の男と仲良くしたとき、僕は君に怒ることが出来ます」
「ふぅん」
「君も、僕がもし君以外の女の子と仲良くしてたら僕に怒れます」
「それで?」
「それで、僕は君が望むなら君にプロポーズすることができます。以上が、君が僕のものになった時に生じる権利です」


それって今とあんまり変わらないですよね、って言おうとしたけどクダリさんがさっきまでと違っていつになく真剣な顔になっていたから、ふざけた言葉は飲み込んで口をつぐんだ。「僕のものになってくれる?」クダリさんはじっとこっちを見ている。掴まれた肩が熱い。彼の手が熱いせいだ。彼の熱がじわじわ肩から全身に伝わってるんだ、だからわたしもこんなに暑くなってるんだ。もう2、3度エアコンの設定温度を下げて欲しい、耳が赤くなってそうだから。背も肩幅も筋肉も力も、ぜーんぜんわたしなんかより勝っているくせしてクダリさんはだいぶと不安げに、まばたきもしないで見つめてくる。早く何か言わなくっちゃと思うのに全身が木彫りになったみたいに動かせなくって、ギシギシ言う首をやっと一回だけこくりと頷かせて返事の代わりにした。なまえ顔まっか、って笑ってぎゅうぎゅう抱きしめてくるクダリさんだって、耳まで真っ赤だ。







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