繁殖未遂のはなし







「ほう、綺麗ですね……しかしあなた何してるんです職場で」


「あっノボリさんチィースんむぐぉッ」


「なまえ。こ、ん、に、ち、は」


「こ、こんにちは!」


「はいこんにちは。それでこれは?」


「あっえっとー、これはですね、グラシデアの花をいただいたので、いくつかさっき」


「頂きものでしたか……ありがたいですが地下に花とは、太陽が届かなくて枯れてしまうのでは」


「昼間だけ外に出しとけばいいんですよーって言ってましたよ!」


「そうで……ちょっとなまえそのハサミ置きなさい。何しようとしてるんです頂いて早々に!」


「まっ。ノボリさんこれだから!かわいそうでも綺麗に咲かせてあげるには花とかはっぱとか間引いてやらないといけないんですぅー」


「そ……!う、なの、ですか?」


「そですそです、はっぱがあんまり密集してたらおひさま当たらなくてちゃんと光合成できなくなって、全体的に元気なくなっちゃうでしょう」

「そうですか……失礼しました。ではその鉢植えはあなたにお任せしま……待ちなさいなまえ、待ちなさい。それも手入れですか?手入れですよね?」


「え?いやこれは折角なのでこの鉢とその鉢で交雑実験などしてみようかと……」


「交雑実験!?何だかとても懐かしい響きですが!?」


「ね!懐かしいですよね!交雑とかスクールの授業以来ですよー言葉思い出すの」


「そうではなくて……そうではなくて、それ、その、切り取って大丈夫なのですか?枯れませんか?」


「枯れませんよぉーここ無くなっても別に問題ないです」


「そう……ですか……?」


「フフン言っときますけどわたしスクールでは理科系科目の成績だけは結構良かったんですよ!あっでも化学とか物理は苦手だったけど」


「それ理科系科目と言うか生物だけでしょう、得意だったの」


「あーあー聞こえませぇぇーん!とにかくねぇ、今のわたしのカガクシャとしての探究心は止められないんですよほっといてください!」


「科学者じゃありません、あなたはただの鉄道員です」


「フーンフフフーン聞こえなァい。さー実験だーい、ノボリにクダリ、受粉しましょうね」


「ぐフォ」


「うわ汚いノボリさんコーヒー零したー!」


「は、ぁ!?あなた、え?」


「ん?あぁ、さっきのはノボリさんに言ったんじゃないですよ?この鉢植えの名前です、こっちがノボリでこれがクダリ、あっちがトトメスでそれはクラウド隣がキャメロン」


「人の名前着けるのはおやめなさい!!」


「え!駄目でしたか!」


「どうして予想外みたいな顔するんです当然でしょう!」


「えぇー、だって愛着沸くかなって思ったんですよう」


「……まぁ、確かに愛着……かどうかは分かりませんが、自分たちの名前をつけられたら嫌でも意識はすると思いますけど」


「そうでしょう!ほらほらこの鉢がノボリですよ、ちょっと黒っぽいやつ」


「はぁ……でもノボリとクダリで受粉させるのはやめて下さいまし。誰得ですか」


「だれとく?んー……?えっと、けど一番綺麗に咲いてるやつ、ボスの名前だし、このふたつ混ぜたらきっと綺麗な花になるしィー……ほらほら、黒紫色と白桃色ですよ、綺麗なブレンド花が……」


「咲きません」


「ちぇー。じゃあいいですよ他ので受粉させちゃいますから」


「その妙な実験を中止するという選択肢はどうでしょう」


「ありえませんね!」


「笑顔で即答するんじゃありません!……で、あなたの鉢は?なまえの鉢もあるんでしょう?」


「え?あぁー。なまえはあれです、あのオレンジぽいやつ」


「それは?その、交雑実験は?」


「うーん、オレンジって合わせにくくて……。あ、じゃあ白桃色と混ぜてみようかなー」


「クダリはいけません!」


「ォワァー!?びびびびっくりしたー!いきなり大ッきい声出さないで下さいよ情緒不安定ですか!」


「す、すみません……ですがほら、オレンジとピンクでは取り合わせが可愛らしいだけですし、何と言うか」


「あぁーなるほど、じゃあクラウドと交雑を」


「それよりこの鉢なんてどうですか」


「……えーノボリィ?」


「おやっこの鉢の名前ノボリでしたっけ嫌ですねぇすみませんすっかり忘れてましたわたくし」


「うーんオレンジと黒かぁ……それはあんまり合わないんじゃ」


「合います!」


「ビャッ!びびびびっくりした……!」


「ほら良く考えて下さいまし、オレンジと黒の取り合わせなんていくらでもあるでしょう……スピアーとか、ミツハニーとかビークインとか」


「めちゃくちゃ攻撃的な警戒色じゃないですか!ハチ系ばっかりですね鉢だけに!?よーし座布団一枚!」


「まったく面白くありません」


「えっ自分でネタ振ったくせにノボリさん酷い」


「ほら早くノボリとなまえで受粉させてくださいよ」


「えー……まぁいっかー。でも素人作業だしうまくいくかわかんないですよ、ちゃんと花咲く保証ないんですよ」


「構いません」


「フーン……じゃあいっちょやりますかー!」


「…………えぇ、どうぞ」


「えーではゴホン、最初に手袋をはめましてー」


「いちいち実況しなくていいですから」


「まずは葯を切り落とします、ばちーん」


「ッあぁぁ!?」


「ォギャー!?なっなっ何なんですかノボリさんバカー!びっくりするじゃないですか叫ばないで下さいよぉぉ怪我したらどうすんです!」


「葯、葯って、人間で言うとあれ、葯って」


「はぁ……?まぁ、性器みたいな……?」


「うっ」


「どうしましたノボリさん丸まって!お腹痛いんですか!」


「ノ、ノボリの葯が……」


「ん?違いますよぅよく見て下さい、今切ったのはなまえ鉢の方の葯です」


「……はぁ?」


「流石に上司の名前をつけた花をパッチンするのはアレかなーって!だから今回の実験ではなまえ鉢のおしべとノボリ鉢のめしべを使用いたします!いえーい問題なっしんぐー?」


「夢くらい見させて下さいよ!」


「えぇーノボリさんってまじでちょっとよく分かんないです」


「この薄ら馬鹿……」


「アハッ何言ってんだかよく分かんないので取り合えずノボリさんにセクハラされたってクダリさんに泣きついてきますね!」


「あっちょっと!待ちなさい、セクハラしてないでしょう!」


「いや立派にセクハラだから。聞こえてたから。何してるのノボリ馬鹿なの」







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