まるで保護者だ





蛍光灯の白い光が照らす殺風景な部屋の真ん中でくるりと彼女は一回転した。「わぁ……!見て見て!見て下さい、サブウェイマスターのコート、ノボリさんのコート、ねぇ似合います?」いささか彼女には大きすぎるそれを誇らしげにひらひらさせて、微笑んでいる。だぼつくコートは肩なぞ線が合わずずり落ちてしまっていて、そこがまた何とも可愛らしい。袖をたくし上げてすっかり隠れてしまった手を露出させ、得意げに帽子のつばを持ち上げる。息が白いのも気にしないで、ごちゃっとした倉庫の中なまえは嬉しそうに笑っていた。


「えぇ、あなたには少し、大きすぎますね」


自分にはぴったりのそれも、彼女ではふくらはぎのあたりまで覆ってしまう大きさなのだと思うと胸がくすぐったかった。暖房もついておらず息の白くなるようなここはコートなしでは少し寒かったけれど、このくらいのことでなまえがこんなに嬉しそうにするならお安い御用というものだ。黒のコートと鉄道員の制服は取り合わせがちぐはぐで、しかし彼女にとってはそんなこと些細過ぎる問題のようだった。腰回りもだぼつき完全に体のラインが見えなくなっている不格好なコート姿のまま、彼女はそれは楽しそうに身をよじりひらひらさせた裾を眺めているのだった。


「サブウェイマスターのコート!」
「そうですね」
「わたしもいつか着れますかねぇ」
「あなたがもっともっと強くなって、わたくしを倒せるくらいになったら、あるいは」
「えー、そしたらノボリさんはどうするんですか?わたしの部下になるんですか?」
「そうですね、そうしたらわたくしは退職して、どこぞの片田舎で余生を過ごしましょうか」
「それは困ります!」


ノボリさんいなかったら困ります!ノボリさんわたしの憧れなんですから!ノボリさんはいつでもわたしの前にいるんです!いなくなるの駄目!そう言ってコートの襟を寄せ眉をひそめる彼女が愛おしすぎて息がつまりそうで、いっそ抱き締めたくて手を伸ばしそうになった。すんでの所で思いとどまる。まだ手を出すべき時ではない。まだ足りない。


「あー。……ノボリさんの匂いしますね。当たり前だけどー」


きゅっと目を細めて笑うからたまらなくなって抱き潰す勢いで引き寄せた。くふふと楽しそうに息を漏らす彼女は、多分こちらのことなど微塵も警戒していないのだ。絶対的に信頼しているのだ。このガキ。ばくばく心臓をせわしなく動かしているのも、きっと自分だけだ。





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