イエスマン





「それってあなた、ひょっとして愛されてないんじゃないですか?」


苦笑だか嘲笑だかいまいち分からないような声音でぽつりと呟かれたその言葉は、しかし僕にとっては核兵器にも匹敵するような威力を持った一撃だった。ぽかんと口を半開いたまま脳で情報を反芻する。僕が、彼女に愛されてない?そんな馬鹿な。まさか。






「キスして、なまえ」


じっと見つめておねだりしたらヘラリと笑ってキスしてくれる。抱きしめてって腕を広げたら頭を撫でるオプション付きでぎゅうってしてくれるし、お腹すいたって言ったらごはん作ってくれるし、疲れたって呟いたらマッサージしてくれるし、セックスしよって言ったら、まぁこれはその日の体調次第だけど、精一杯ご奉仕してくれる。至れり尽くせりだ。なまえは可愛い可愛い、よく出来た僕の恋人なのだ。ソファに座ったまま彼女を見上げていた僕の膝上へ、少し遠慮がちにまたがって、彼女は首元へ腕を絡めてくる。少し恥じらったように目を細めて、ゆっくり唇を寄せられるこの瞬間が好きだ。背中を撫で上げただけでもとろんと揺らぐ瞳が愛しくて、執拗に手を這わせてしまう。押し付けられる柔らかい体が好きだ。




だってあなた、自分から懇願したとき以外で、彼女に求められたことあるんですか?




リフレインするノボリの嗤ったような声が思い出されていらついた。吐息と一緒に唇を離したらさんざ口内で混ぜ合わせた唾液が糸になって僕ら同士を繋いだけれど、すぐプツリと切れ冷たいしずくになって落っこちる。彼女は瞳を潤ませて僕を見つめている。ふにゃりと弛緩した笑顔のままで。




あなたばっかりが必死になってるだけなんじゃないですか?




「なまえは、僕のこと好きだよね」


返事はイエスに決まっているのに、そう言ってくれるはずなのに、聞くのが怖くてその唇が言葉を吐き出す前にもう一度塞いだ。安心しきった表情で僕を受け入れてる彼女の腰を引き寄せて、噛みつくように口付ける。可愛い可愛い僕の、僕のなまえだ。僕の。


「僕のことっ、好きでしょう……?好きって、言って。言って」


腕の中で僕にされるがままじっとしているなまえの、頬に右手を添えて瞳を覗き込む。その目には僕しか映っていない。引き込まれそうな深い色の目には、そう、僕だけが映っていて、




求められるから与えているだけで、本当はあなたのことなんてどうでもいいんじゃないですか?




そんなこと言われやしなかったのに僕の不安は疑似的なノボリを構築してしまって、頭の中で次から次へと疑心の種を撒き始める。優しい人だから、なまえは。あなたの欲しがる物を与えてやろうとしてるだけで、それはポケモンに対する愛情と同じようなものなのではないですか?彼女からあなたを求めたことはあるんですか?求められたことはあるんですかクダリ、あなたは?


「好きですよ、クダリさん」


おかしな話だよね、求めたら応えてくれて、いっぱい尽くしてもらって、好きって言わせて、それでもまだ僕は君からの愛情を疑ってしまってるんだから。


「キスして、なまえ。いっぱいキスして」
「はい」


僕の求めた通りに優しくちゅうちゅう唇を落としてくれる彼女は本当に僕のことを愛してくれてるのかなぁ。君とひとつになれたら君がどれくらい僕を好きでいてくれるか分かるのに。ありったけ愛しそうに僕の喉を撫で上げてくれる時が一番幸せ。いつか君から襲ってくれないかな。





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