泣きわめいて潰した喉からはしゃがれた声しか出てこない。ナマエもそれは同様のようで、喉飴を舐めながら横を歩いている。ふたりしてふらふらな体を引きずり濃い隈を目の下に貼りつけ、揃って出社する様はどれだけみっともないのだろう。考えるだに頭が痛くなりそうだったので、ナマエと絡めている腕をしっかり組み直した。ふたりで体重を支え合っていないと、いつどこでまた泣き崩れるか分かったものじゃない。


「あー、おはよー。あのね、カミツレ来てるから……ふたりともヒッドイ顔!」


驚いたように大声をあげたクダリを睨みつけて(少し泣きそうになってしまった)、ナマエとふたりしてソファへどっかと座り込む。カミツレさん来てるんだ、と小さく呟いたナマエの頬をぐりぐり撫でて無言で慰めた。何故かそれをクダリはとてもほほえましそうに見ている。


「おはよう、おふたり……何よ酷い顔ね!」


驚いたように以下略を今度はナマエが見つめて(睨みはしなかった)、さっき乱暴に撫でたせいで赤くなっている頬と泣きそうに潤んだ瞳を見つめ返したカミツレが、何か得心したようにクダリとアイコンタクトを取った。何うなずき合っているんですか腹立たしい。ぐりっと鳩尾に額を押しつけてくるナマエの頭を抱えるようによしよし撫でてふたりを恨めしげに睨んだら、どうしてか一層笑みを深くされた。


「ハハァン……君たち……」
「もうとっくにそういうのって終わってるかと思ってたわ」
「ねー」
「……はい?何が……」


痛む喉からかすれた低い声が出たが、それにすらあらあらと言わんばかりの反応で返される。


「そっかそっか、うんうん君たちって、いやぁ」
「ねぇ」


まー君たち仲良さそうだったからその内そうなるって思ってたけど!そうよあんたたち遅いのよ!だなんてニヤニヤしてるふたりに何ですか馬鹿共がこちとらお前たちのことが今でも好きですよとぶつける代わりに、涙をのみこんでナマエをぎゅうと抱きしめた。ふたりはその意図を理解しないまま、見守るように笑みを濃くする。腕に閉じ込めたナマエが大きくため息をつくから、つられて大きく息を吐いた。とんとん胸を叩く手を握って頭部を解放すると、吹っ切れたように苦笑する彼女がいた。眉はまだ情けなく下がっているけれども。耳元に口を寄せて、ふたりに聞こえないよう笑みを含んだ声音で囁く。


「ねぇナマエ、チャンスがあったら奪っちゃいません?」
「……ぶは、あは!そのジョーク最高です」
「またダブルデート行きましょう」
「ペア交換も入れてね」
「えぇ」


ね、ナマエ、10年先か20年先かはたまた50年先になるかは分からないけど、あのお似合いのふたりが別れてしまったらね。その時にはめいっぱい優しくして、計画の続きをやりましょうよ。まぁそれまでは仕方ないので、あなたの恋人役でもしててあげましょうか。涙のすっかり引いた目でぱちぱち見つめ合って、笑えない冗談にふたりしてゲラゲラ笑った。



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